堅実な生活の果てに選んだ『任意売却』
「身の丈に合った生活を続けてきました。家を買うときも頭金の準備は怠っていません。にもかかわらず、経済的に困難な状況に陥りました。ローンの支払いが苦しくなった際は、利払いのみの申請をしたのですが、その期間が終わると、以前以上に苦しくなりました。住宅ローンを滞納し始めて7カ月後、裁判所から競売開始決定通知が送られてきました」
関東南部在住Sさんは、自他とも認める慎重派。平穏無事、無難な選択しかしたことがありません。にもかかわらず、家を任意売却で手放すことになりました。その経緯をたどりながら、原因を探ってみましょう。
『身の丈に合ったローンだったはず』
Sさんは当時30歳目前。結婚するときに、戸建てを約3000万円で購入。独身時代に頭金も用意していました。転職歴もなく、女性ながら自分名義で家を買うことに誇りもありました。不動産業者からは「婚約者の収入を合算すれば、もっといい(高い)物件が買えますよ。」と、強く勧められたほどです。
しかし、Sさんは堅実な道を選びました。将来産まれてくるかもしれない子どもの教育費、老後資金。余裕のない生活はしたくなかったのです。
夫の入院、自身のパニック障害発症から住宅ローン滞納へ
結婚して2年後、Sさんには元気なお子さんが生まれました。産休や育休を取り、すべては職場復帰を待つばかりでした。しかし、育休を経て時短勤務で元の職場にもどったものの、別の部署に変わっていました。慣れない仕事、保育園で次々に感染しあう病気。子どもの急な病気での欠勤や早退も重なった時期に、ご主人が仕事中に交通事故に遭い、1か月ほど入院したのです。
ワンオペ育児に仕事のストレス、夫の入院先に通う日々を過ごすうち、Sさんの心身は不調をきたしました。電車に乗ることができない。子どもが泣くと自身をコントロールできない。Sさんはパニック障害と診断され、仕事を退職。母子で実家に引き取られることになりました。
親御さんは心身に支障をきたした娘と孫の世話に精一杯で、娘の家のローンまで頭が回りません。夫も退院後は自分の実家から仕事に通うようになり、銀行からの連絡や封書などは確認しないまま月日が過ぎていました。
一括返済請求と競売開始決定通知
夫が有給を自宅で過ごしていたある日、突然裁判所から職員がやって来ました。現況調査です。そこで初めて家が差押えになっていることに気がついた夫。慌てて妻の実家に事情を話しました。そこで初めて任意売却119番に相談があり、家は任意売却するか競売で失うほかないことを知ったのです。
本ケースでは、Sさんの当初の慎重な選択が幸いし、任意売却時にローンは完済できました。家の管理状態がよかったこと、手ごろな価格であったことが功を奏しました。Sさん夫婦は落ち着くまでそれぞれの実家で過ごし、折を見てまた家族の生活に入る予定です。