(56)任意売却で引越し代はいくら出ますか?
引越し代は“当然”ではなくなった昨今
予めお伝えしておきたいのは、『引越し費用は必ず出るとは限りません。』これが最も誠実な回答です。
一般に引越し費用とは、運搬業者や転居先へ納める敷金や礼金、保証金、家賃保証会社への保証料や損害保険料などがあります。家族で引越しをする際は、数十万円もの費用が必要でしょう。任意売却でこれらすべての費用を誰かに用意してもらえるのでしょうか。任意売却と引越し代の現状を、最新の動向を絡めながら説明していきます。
引越し代などない住宅ローン破綻者
任意売却を相談する人は、そもそも経済的に困っています。住宅ローンに行き詰っているからこそ、任意売却を選ばざるを得ないのです。引っ越しをするだけの資金があるなら、住宅ローンの支払いも可能であるはずです。
とはいえ、任意売却の際の引越し費用は近年、必ずしも得られるものではなくなりつつあります。その理由や背景についてはあとで説明しますが、引越し費用は住宅ローンを滞納している間に”払っていない住宅ローンの中から準備しておく”算段が必要です。もちろん、任意売却で引越し代が見込めることも多々あります。
つまり、任意売却時に引越し代は必ずしも得られるわけではないが、得られたとしても充分な額ではない可能性が高い、というのが最新の動向です。
引越し費用は誰が出すのですか?
1)債権者から
売却が決まった際、債権者が売買代金のなかから引越し代を拠出してもらえることがあります。これは、債権者(ローンの貸し手やその保証会社)によって、姿勢がまったく違います。あくまで引っ越し費用は、債権者が社内稟議を経て認められたうえで出るものです。なお、与えられた引越し費用などの売却時の諸費用は、残債務として負うことになります。つまり「立替金」です(自己破産をする場合は、債権者の負担となります)。なお、売却が決まらない限り引越し代の検討はしないため、買い手がつかない限り、そのメドは立ちません。
2)買主から…?
債務者から時々その物件がどうしても欲しくて、売主さんの退去費用を負担してもいい、という場合でかつ、手元資金に余裕のある買主が現れるのであれば、転居費用が見込めるかもしれません。
とはいえ、表向きは通常売却として進むのが任意売却です。一般的な売出物件を買う際に、売主から『購入代金とは別に、現金で引越し代を出してください。』と言われたら戸惑うことでしょう。また、買主が購入代金として出すお金は本来、債権者が回収すべき資金であることは理解しておいてください。
<任意売却における引越し費用の取り扱い>
●引越し代はいつもらえるの?
注意していただきたいのは、引越し代が渡されるのは、決済当日(物件と鍵を渡す時)がほとんどです。
理由は、現金の授受は決済当日、買主から渡される資金を分け合うからです。そのため、事前に前金などを預かったり、受け取ったりはしません。通常売却でよく授受される手付金は、任意売却の場合ないのが一般的です。これは、任意売却がローン破綻に起因しており、債権者が売買代金すべてを受領(債権回収)するためです。
●債権者にとって引越し代とは『運送費』程度
債権者側では、引越し代は運送業者に支払う運賃程度、と考えています。家族での引越しでも約10~30万円前後が目安となるでしょう。転居先へ納める敷金や礼金、保証金、家賃保証会社への保証料や損害保険料といった資金は含みません。その理由は当然、多額の控除費用を認めては、債権回収の目的に反する(会社の利を損なう)からです。また、ローン滞納という契約違反をしている先に現金を交付するということ自体、道義的な疑問をもつ債権者も少なくありません。そのため、引越し代が出るとしても、多額の現金を期待しないほうが無難です。
●引越し代は競売との天秤
『多額の引越し代を出すくらいなら、競売で処分します。』債権者にこう言い放たれることもめずらしくありません。
債権者は常に任意売却と競売落札を比較して、どの程度の債権回収が見込めそうかを考えます。任意売却で仲介手数料や司法書士費用、税金やマンションの管理費、果ては引越し費用まで配分してしまうと、競売のほうが回収額が高くなってしまう逆転現象も考えられます。そのため、任意売却で買い手がついたからといって、引越し代があるか、と聞かれると債権者や案件内容によっては、交渉に応じてもらえないこともあります。
『引越し代100万円確約!』は実現可能か?
困っている人ほど甘い言葉に迷いやすい傾向にあります。経済難で心身ともに疲れているとき、「大丈夫です。引越し代100万円をお渡しします。保証しますので、ここに名前と印鑑を押してください。」と、まことしやかに繰り返しささやかれたら疑うより、「ああ、これで助かる。」と、藁にすがる思いになるかもしれません。
しかし、任意売却は不動産という商品の売り買いです。売り出す前から多額の現金を保証などできるわけもないのです。事実、毎年「多額の引越し代を約束していた業者から突然、“競売になったので降りる”と言われた。」と、焦った相談を受けます。
人は困った時についミラクル(奇跡)が起きることを望みがちですが、世間には打ち出の小づちはもちろん、魔法の杖もないことを受け入れて、現実的な対応を考えるほうが得策です。
引越し代のない人は、どうしているのか?
ここが核心になると思います。やはり、引っ越そうにも動けない方はいらっしゃいます。その場合、私たちがどのようにしているか、ですが以下にパターンが分かれます。引越し費用の兼ね合いだけではなく、心身の都合、例えば入院中やお体が不自由な方の転居をどう解決しているか、これまでの事例を挙げていきます。
・自力搬出…任意売却では家族や友人総出で荷造りをし、自家用車を使って運搬をよく見受けます。何往復もしながらの転居作業のため、数日かかることも少なくありませんが、
・民生委員やケアワーカー、役所に相談する…特に入院中やお体の都合で、自身で手配や準備は難しい場合、公的あるいは周囲の方に相談することがあります。もちろん、引越し作業に対する公的なサービスはないのですが、体や生活に特段の事情がある方には、助成金が出る自治体もあります。
・その他…ある程度の譲歩や算段については、私どもにご相談ください。どんなことでも対応できるとは限りませんが、任意売却は交渉ごとであるため、各方面に理解や協力を仰ぐことも検討致します。