【離婚と財産分与】離婚時、家と住宅ローンはどうすべきか?
離婚の際、夫婦関係とともに清算すべきことがいくつもあります。財産分与もそのひとつです。預貯金であればまだ分けやすいと言えます。最も対応に困るのが、住宅ローンの残った自宅ではないでしょうか。
目次
財産分与とは
「財産分与」とは、離婚する「夫婦が結婚生活を営んでいた期間」に、「協力して築いた財産を分け合うこと」を指します。清算の結果、プラスとなったら夫婦で折半(2分の1)するのが原則です。とても分かりやすいものに思えますが、揉める要因であることも多いのです。
なお、財産分与の意味合いとして、上記の清算を主旨とするものもあれば、いっぽうの生活保障を主眼とする扶養的な財産分与、そして慰謝料として清算する場合もあります。本来ならば、慰謝料と財産分与は分けて考えるべきですが、金銭でまとめて行われることもあります。
離婚時、どんなことが問題になるのか?
1.分与が難しい不動産
不動産とは、その名のごとく動かすことができない資産です。また、土地と建物別々といった分け方もできません。
夫婦で共有している場合、離婚時には売却するかローンを負担する側に名義や責任をまとめておくほうが無難です。家の維持には、固定資産税や損害保険料、修理修繕費といったお金がかかるものですが、そのたびに離婚したふたりが連絡を取り合うのも負担が大きいことでしょう。
ただし、共有名義を単独に変更するのは至難の業です。その理由は主に以下です。
・ローンの借り換え先が見つからない
・借り換えにも相応の費用がかかる
やはり、総合的な判断から婚姻関係を解消する際には、金銭面も清算しておくほうが得策であると言えるでしょう。
2.価格算定が折り合わない
不動産の価格について、双方の言い分や計算の根拠が違っていることがほとんどです。特に不動産の場合、査定額の出し方がさまざまです。聞いた先だけ回答があると言っても過言ではありません。分与額を上げるために高く査定する方法はいくつかありますし、その逆もまた然りです。
例えば、不動産の所有者である夫がその家に住み続ける場合、その家の価値の半分を現金で妻に渡すことになります。金銭に余裕があり、考え方が鷹揚ならば話は別ですが、概して離婚する相手には、できるだけ渡したくないという感情が生じるものです。
そのため、いっぽうはできるだけ高く、他方は安い算定額を採ろうとします。例えば、夫側は自宅周辺の不動産の流通量がそう多くはないことを理由に固定資産税評価額(一般に時価の7割程度)を時価とする。対して妻は、あくまで周辺取引相場の最も高い価格を参考価格とし、財産分与を求める。こんなことはよく起きています。
財産分与にかかる税金と時効
<税金面>
財産分与には原則、税金が課せられることはありません。ただし、不動産や株式といった価値が偏かする資産の場合、別種類の税金が課せられる結果になることはあります。
<時効>
財産分与の請求権にも時効があります。離婚後、二年間です。しかし、それまでに着地しない場合もあるはずです。その際は二年以内(除斥期間内)に、調停を家庭裁判所に申し立てることによって、期限延長が可能です。
コラム:家の価値がマイナスの場合、他の資産と相殺するのですか?
質問:
『住宅ローンの残高と家の価値を比べると、明らかにオーバーローン(債務超過)です。住宅ローンは夫の名義ですが、彼は“ふたりで買った家だから、マイナス分は妻にも責任がある。うちに預貯金はないから財産分与はなく、借金は共同責任だ!”と、主張しています。本当にそうなのでしょうか。』
回答・提案:
婚姻していた際になした財産は、プラスでもマイナスでも財産分与の際に考慮するというのが原則的な考え方です。これは、名義に関わらないものです。
婚姻時代の借入には、生活のために借りたローンや住宅ローン、オートローン、教育ローンなどが挙がります。
そのため、まずは積極(プラス)財産から消極(マイナス)財産を相殺し、債務超過が確実であれば、(このケースで妻は)もらうものはありません。
しかし、夫は借金も共同責任であると断じています。この場合は、妻が連帯債務者あるいは連帯保証人となっていない限り、支払いの義務は生じません。当事者間で、妻がマイナス超過額の半分を夫側に支払うという約束はできます。ただし、財産分与とはあくまでプラスを分け合うものであり、一般に借金を分け合うことはしません。
また、夫婦がどんな約束を交わし、たとえ離婚公正証書を作成したとて、債権者とすでに結んだ契約には何の影響も及ぼしません。例えば、連帯保証人を抜く、共同の債務だが夫のみの責任とするなどです。
また、債権者が離婚前に組んだローンについて、契約に無関係の人へ返済を求めることもありません。当初の契約書内容が完済まで続きます。
財産分与と住宅ローンの対応方法
離婚時の住宅ローン清算方法を大別すると、維持と売却に分かれます。
【1】維持
そのまま住み続けるならば、『誰が住むのか』が重要です。所有者であれば問題はまずありませんが、それ以外の方であれば、契約上の変更手続きが必要となったり、リスクを抱える可能性大です。
<名義人以外が住む>
=特段の変更をしない=
名義人が住み続ける場合はまず問題ない可能性がありますが、それでもローンの責任が誰に及ぶのかなどについては、その残高とともに確認しておく必要があります。特に配偶者やその親兄弟を連帯保証人としていたと言う場合、離婚時に忘れていることがあります。
最も多いケースは、名義人の夫は転居し、妻子が住み続けるものでしょう。妻への財産分与あるいは養育費の代わりとして夫側が住宅ローンの残債を支払うものです。この場合、一般にローンの貸し手の許可なく家の所有権を妻へ変更してはなりません。
またリスクとしては、離婚後にも住宅ローンの完済が本当に実現するのか。夫側の再婚などによる相続人や利害関係者の変化。ローン完済後の名義変更による租税の発生有無があります。なお、税金面については必ず所轄の税務署にご確認ください。
=住む人がローンを組み、家を引き受ける=
これは財産分与とはならないケースがほとんどでしょうが、安全な手法です。住宅ローンは所有者と住む人が一致している必要があるため、その要件に沿った手続きです。当然ですが、ローンを組む側に相応の安定収入が必要となります。また、この手段であれば共有名義や連帯保証人の解消も狙えます。
【2】売却
自宅を売却して現金化し、分け合います。最も分かりやすい手段ではありますが、住宅にかかるローンの残高と時価次第で方針や結果が異なります。
一戸建てやマンションを販売する際には、まずローンの残高を確認し、査定といって現在の価値を調べることが先決です。査定には、一括査定サイトによる簡易査定と不動産業者の訪問などによる査定があります。できるだけ訪問による査定を依頼しましょう。不動産の価格決定には、多種多様の要素があります。
<ローン残額と査定金額の関係>
【アンダーローン状態】
自宅不動産の査定額が残債額を上回る「アンダーローン(売却後にお金が残る)」の状態であれば、そのまま売却し、現金化するのが最もシンプルな方策でしょう。売却して住宅ローンを完済し、手許に残った資金を夫婦で分け合うこと(財産分与)ができます。
懸念は査定額通りに売れるかどうか、いつ売買が成立するのか分からないことです。また、財産分与自体に税金はかからないものですが、残余が売却益に該当した場合は、税金面を考慮する必要があります。
【オーバーローン状態】
オーバーローンとは、一言で表すと債務超過。査定額(価値)がローン残額を下回る状態のことです。その場合は家を売却するには、差額を補填する。あるいは任意売却をするという選択となります。
※任意売却とは原則、経済的な事情からローンの完済を断念して売却を図るものです。任意売却では債権者の許可を得たうえで、出された条件に従って販売します。これは、抵当権設定があるために自由に売買ができないようになっているためです。任意売却は先述のとおろ、ローン残高に満たない金額で売却するため、手許に資金は残りません。そのため、財産分与として分け合うことはならず、意味合いとしては借金の清算となります。
まとめ
住宅ローンを抱えた状態で離婚する際の財産分与について説明しました。離婚することが避けられない場合はまず「ローン残高」と「家の価格」を確認し、ローンの契約書(金銭消費貸借契約《金消契約》)の内容からローンの責任者を洗い出すことが先決です。
家の維持にはさまざまなコストがかかります。また、夫婦関係の清算と同時に住宅ローンも解消しておくことが望ましいため、総合的な判断としては損切りとなっても家は売却しておくことに理があると言えます。
どうしても売却ができない、あるいはしない場合は権利関係やローンの責任を住む人にしておくことで将来的なトラブルを避けることができるでしょう。