(31)住宅ローンを滞納して一括返済請求が。家を守る方法はあるか?
『一括返済請求』とは
一括返済請求とは、“ローンの残りを全部返済(完済)してください。”という意味です。これは、ローンすなわち分割払いができる権利をもう認めないことから、貸し手は以後の取引を断るものです。
人生は予測不能:長期の住宅ローンのリスク
リスクの意味は”危険”と認識されていますが、経済学での定義は”ある事象に関する不確実性”を指すそうです。
時間の経過に変化はつきものです。特にこのサイトをご覧になる方は、過去10年、20年を振り返って何の波風もなく、順調に月日を重ねた、ということは少ないはずです。
私たちは相談を受けている立場であるがゆえ、お会いする方は、離婚や病気や事故、高額な教育費、介護など、住宅ローンを組んだ際には想像だにしていなかった事態が発生しているケースがほとんどです。
預貯金などの蓄えがないまま収入が減ってしまったり、一時的に高額な支出が発生するとどうなるでしょう。毎月きちんと返済を続けていても、住宅ローンは家計に占める負担は大きいものです。生活費や教育費などの支払いに追われ、ついつい住宅ローンが払えなかった、あるいは支払いが遅れがち、ということになってしまいます。
1~2ヶ月程度の住宅ローン滞納、あるいは遅れての支払いであれば、金融機関も様子をみたり、待ってくれるケースが多いのですが、滞納が3ヶ月以上になると、金融機関もこのローンは破綻するか否かを明らかにすべく、債務者にローン契約破棄の予告通知を送ったり、競売(差押え)を示唆するようになります。
その場しのぎに『来月払います』と言い続けていた…
金融機関から督促を受けた際、実現の見込みがないのに、『来週払います』『もうすぐ入金します』『来月まとめて払います』といった返事をする方がいます。それが実現できるなら構いません。悪気はなくとも約束が守れないと、いっそう信用を失います。
金融機関は、逐次顧客との折衝履歴を記録しています。いつ、相手が誰で、どんなことを言ったかを克明に記録しているのです。悪気がなかったにしろ、結果的に嘘を重ねてしまうのは、任意売却をする場合においてもよくありません。また、結果的に払えなくて、次の督促を受けた際に更なる言い逃れができず、結果的に督促を無視する方もいます。
支払いのメドが立たないならば、言いづらくともその通りに申し出ましょう。契約を守る努力をするのは当然の義務ですが、支払いたくてもできないのは仕方がないのです。少なくとも嘘を重ねるよりはずっとマシです。
滞納が続き、一括返済請求を受けたら、分割払いはできないのか?
回答から申せば、原則できません(原則、の説明は後述)。
一括返済請求は残金を支払え、という要求です。よって、ローン契約は破棄され、失効しています。失効している以上、分割には応じないため、残金を返さなければなりません。
住宅ローンの残金を全て一括で払えと言われたても、それができるのならば、滞納することはないでしょう。できない請求をしているのではなく、差押える前の手順として、期限までにローン残金を全部支払ってください、さもなくば差押え(競売申立手続き)しますよ、という予告です。
この時点で、住宅を売却して住宅ローンを完済できるのであれば問題はありません。しかし、住宅の価値がローン残高を下回っているうえ、売却時にローン残高+仲介手数料などの売却費用-売却代金の差額が用意できないと、通常の売却方法は取れないため、任意売却を検討せざるを得なくなります。
例)ローン残高3000万の物件を2500万円で売却する場合の差額費用
3000万+100万(仲介手数料+司法書士費用+印紙など)-2500万=600万(概算)
通常売却をするには、この約600万円を売却時に現金一括で用意する必要があります。
それでも諦めきれず、『債権(ローン)が保証会社やサービサーに移ったが、ローンを元に戻せないか?』と質問を受けることがよくあります。ローン契約を破棄されているが、以前のように分割払いさせてほしい、と。これは、債権者(貸し手)の立場で考えれば分かりやすいと思います。
お金を貸した相手が、契約違反である滞納を重ねたので、仕方なく契約を破棄し、貸したお金全部を返すように、と求めた。すると借り手側が、「今後はちゃんと払いますので、破棄した契約を元に戻してください。」と言われて、応じるでしょうか。その払える根拠があったとしても、一度失った信用は取り戻すことは困難です。
金融機関は、ローン契約破棄の際にも、それなりの事務手続きが生じています。また、ローンが代位弁済されてしまっていると、それを元通りにするには、それまでに行った手続きを逆戻りさせるための処理が必要になります。一旦信用を失った相手に、そんな対応をするでしょうか。
一発逆転への望み:個人再生・住宅ローン特則(※)の認可を裁判所で受ける
ここから、前項で「原則」と断った理由とその内容について説明します。住宅ローン契約が破棄されても、ローンの巻き戻しを希望する場合、個人再生の住宅ローン特則を活用すれば、叶うことがあります。これは弁護士や司法書士に依頼し、裁判所を通じて行います。
『一括返済請求を受けた、あるいは代位弁済通知が来て、債権者がローンを認めない』場合に、検討する手段となります。要件や期限などが細かく、費用もそれなりにかかるため、援用が受けられるかどうかなどは、弁護士や司法書士に確認しましょう。
(※)住宅ローン特則…通称、住宅資金特別条項のことを指します。
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは
個人再生の「住宅資金特別条項」とは、「住宅資金貸付債権に関する特則」という制度です。民事再生法196条以下に規定されており、通称「住宅ローン特則」などと呼ばれることもあります。
代位弁済から6か月以内に(個人)再生手続き開始の申立てをした場合、代位弁済がなかったこととなり、ローンの巻き戻しを図れるものとなっています。
住宅資金特別条項…住宅ローン、つまり住宅資金貸付債権について、そもそもの契約通り、あるいは計画変更をしてローン継続することです。自宅・マイホームはそのまま残しつつ、その他の借金を個人再生によって減額し、分割払いとすることができるものです。
「住宅ローン特則」には、種類がある
A:期限の利益の回復(ローンの巻き戻し)
滞納しているローンの元金と遅延損害金を分割で支払うもの。期間は原則3年間ですが、最大5年までの支払いを認められることがあります。この期間は、元々の住宅ローンの支払い金額も合わせて支払いますので、注意してください。
B:最終支払期限延長型(リスケ)
Aは認められてもかなり過酷な支払いスケジュールとなります。そのため、支払期間延長が認められることがあります。最長で10年延長できる可能性があります。リスケジュールと同じ効果があるわけです。よって、毎月の支払い額を減額できるわけです。ただし、完済年齢が70歳となっているので、もともと70歳以上でローンを組んでいる場合は援用できません。
C:元本据え置き型
Bのリスケジュールでも支払いが難しい場合、「元本据え置き」という方法があります。往々にして個人再生をする方は、住宅ローン以外にも種々の借金がありがちです。その支払いに加えて、住宅ローンの支払いするのは、負担が大きいは、弁済期間中の住宅ローンを元本の一部または利息のみを支払っていける、という方法があります。
D:交渉
上記以外の特則で住宅ローン債権者の同意を得ることもあり得ます。例えば、返済期間をもっと延長する、ボーナス払いをなくす、などです。
重要:住宅ローン特則の要件
住宅ローン特則の援用を受ける際は以下の要件があり、それらを全て満たす必要があります。
1)債務者(再生債務者)
個人であること、債務者のための居宅であること
2)居宅
建物の床面積の半分以上が債務者のための居住用であり、その抵当権が住宅ローンの債権者または保証会社のみで設定されており、住宅ローン以外の抵当権設定がないこと。
3)住宅ローン
住宅ローンであること。自宅の建築、購入、リフォームのための借入れあるいは借り換えのローン(分割払い)で設定されていること。
※詳細は、弁護士あるいは司法書士にご確認ください。