(50)私は連帯保証人。主債務者が自己破産しました。
連帯保証人とは、『実際に借りてはいないが、主債務者と同じ責任をもちます』という立場です。借りたお金を使いもしないのに、主債務者(借金をした本人)とほぼ同じ立場にいます。そして主債務者が借金を支払えないときは、代わりに支払わねばなりません。非常に重い責任のみ請け負うのです。
いったんその責任を負ってしまうと、借金を完済するか、自己破産などで帳消しにしない限り、逃れることはできません。
主債務者の滞納が生じると、連帯保証人へ請求がいく
『連帯』という言葉がつく以上、借りた本人かどうかすら関係がありません。実務上は、主債務者が債権者(金を貸した側)返済をしないと、連帯保証人に請求があります。おまけに連帯保証人には抗弁権がありません。「便宜上のものだと言われた」「主債務者に請求してくれ」といった主張は通りません。
今回のコラムでは、住宅ローンについて主債務者かつ所有者を夫、連帯保証人を妻として展開します。最も多いケースであるためです。連帯保証人の責任は、離婚など生活状況の変化は影響を受けません。
相談者:Wさん 40代のシングルマザー
内容:「元夫の住宅ローンについて、連帯保証人です。先日夫が自己破産申請をする、と弁護士から連絡を受けました。とうとうこの時が来たな、と思いました。離婚理由が元夫の借金癖だったからです。私に最も悪影響の少ない方法を教えてください。」
<連帯保証人が受ける影響を少なくするために>
被る借金をできるだけ減らす=『任意売却』
主債務者が自己破産をすると、連帯保証人もそうなるわけではありません。自己破産申請は強制されるものではなく、自己の意思決定に基づき行うものだからです。
では、任意売却でできるだけ早期に高く売却する場合、連帯保証人はどのようなことに注意すればいいのでしょうか。
連帯保証人のみでは、任意売却ができない
主債務者の借金について抵当(担保)権が実行される際、できることならその不動産を高く売って、借金の返済に充ててほしいところです。しかし、理不尽な話に感じるでしょうが、主債務者と同じ責任があるにも関わらず、不動産の処分については所有権がない限り、連帯保証人では売却はできません。また、連帯保証人の資産を差押える前に主債務者の資産を処分するよう求める権利(抗弁権)もないのです。
<主債務者が自己破産を申請。連帯債務者はどう対応すべきか?>
●受任した先生に連絡を取る
ほとんどの場合、主債務者の破産申請を受任した弁護士や司法書士、あるいは債権者から連帯保証人へ連絡がきます。その際、連帯保証人から受任した先生に「任意売却を取り計らってください」と申し出ましょう。理解のある先生ならば、債権者へ連絡をしてくれるはずです。ただし、管財事件といって別の弁護士が物件の処分を行う場合があります。また、そもそも債権者が任意売却に応じない可能性もあります。
●連帯保証人の破産は必須ではない
よく聞かれる点ですが、主債務者が自己破産したからといって、連帯保証人も自己破産しなければならないか、と言えばそうとは限りません。自己破産は強制されるものではなく、本人の意思に基づいて申請するからです。主債務者が自己破産すれば、連帯保証人に借金残高のすべてを一括で返済するよう(一括返済)請求がいます。その時点でも生活状況を説明して、分割で支払うことに応じてもらえないか、といった交渉は可能です。
連帯保証人への影響
1)信用情報
2)新規借入やローンが使えない
3)資産の差押え
1)信用情報は連帯保証人にも影響が出ます。なぜなら、主債務者の借金について一括返済請求を受けた際、弁済できなければ、延滞履歴がつくからです。そもそも連帯保証人になった時点で、保証した借金について信用情報に借入残高として記録があるため、新たに借入を起こすにはハードルが高いのが一般的です。
2)これは1の説明と同じです。信用情報によくない履歴があるため、与信(お金を貸せる)先としては認められない、あるいは認める先は限定的となります。
3)請求された借金が返せない以上、債権者は債務者や連帯保証人の資産を調査し、適宜差し押えます。この調査の範囲や対応は債権者によってもさまざまなので、どうなっていくかを断言することはできません。給与(法律で可処分所得の4分の1まで)や不動産、時に生命保険の返戻金などが差し押さえられたりしています。
~主債務者が自己破産した連帯保証人たちのその後~
1)夫の事業資金借入の連帯保証人だったC絵さん
夫の事業が倒産しました。政策金融公庫からの借入について、夫は個人保証をしていました。私はその連帯保証人です。事業とともに夫は自己破産をしました。ほどなく、私あてに一括返済請求がきました。無職の年金生活の私では払えるわけもありませんが、さりとて私まで自己破産をするほどのこともない、と考えています。
保証協会(日本政策金融公庫債権の移管先)からは、「奥さんが破産しないなら、支払っていただきます。」と言われました。仕方のないことです。ただ、年金は差押えることができない、と聞いていました。保証協会の担当者とは、支払い額について2度やり取りがありました。その結果、月に1万円ずつ支払うことになっています。生活(収入など)に変化がないかを確認するため、定期的に保証協会へ連絡を取る必要がある、と言われています。
2)住宅ローンの連帯保証人だったJさん
離婚時に「住宅ローンの連帯保証人から外す。ローン返済でJ(私)には迷惑を掛けない。」と、離婚協議書で定めていました。しかし、離婚の数か月後に元夫は自己破産を申請。Jさんが2000万円を超えるローンの一括返済請求を受けました。まずいことに離婚の前年に相続で実家を兄と共有で受け取っていたため、実家の持分が競売にかかってしまいました。
親族と相談し、Jさん側親族が債権者に140万円を支払って買取り(実家はほとんど市場価値がない)、残りについてはJさんも自己破産をすることにしました。Jさん側がお子さんを引き取っているのもあり、早めに借金整理をしておき、進学時のローン利用に備えることを優先しました。
離婚協議書は当事者間の覚え書きに近く、対外的な効力はほとんどありません。作成の意義があるかどうかも含めて注意が必要です。
3)住宅ローンのリスケジュール時に連帯保証人となったR子さん
もともと夫単独責任のローンだったのですが、リスケジュール(支払い計画の緩和)を申請した際、「奥様は連帯保証人になっていただきます」と言われ、深く考えずに応じたR子さん。計画変更しても生活が成り立たず住宅ローンを滞納。夫婦で督促や一括返済請求を受けました。
その後自宅は任意売却をし、残債務は夫が支払っています。R子さんはフルタイムの契約社員として5年以上働いていますが、信用情報に難があることから、車のローンも組めません。結果的にはR子さんが連帯保証人になったことで不要なトラブルに巻き込まれた結果となり、安易に銀行の求めに応じたことを後悔していらっしゃいます。