(59)なぜ任意売却に初期費用がかからないの?
“任意売却・初期費用なし”の仕組み
『無料やタダという説明は、かえって怖い…。』
タダより高いものはない。そう教わりましたよね。
任意売却の場合は『持ち出しで用意する現金が原則不要。』という意味です。つまり、あらかじめ売却費用を準備する必要がないのです。通常の売却で不動産を処分する際は、多額の現金を準備します。目安としては、転居費用やハウスクリーニングなどを含めると売却代金の5~10%程度、と言われています。リフォーム後の引渡しとなればもっとかかるでしょう。
一方、任意売却はそもそも住宅ローンの支払いに困っている方が取る手段であるため、事前に多額の現金を用意することは困難です。金融機関側もその点は承知しています。
売却費用は本当に無料なのか?
『持ち出しで準備する費用がないという意味』
任意売却には手出し現金の用意が必要ないからといって、売却にかかる費用が発生しないわけではありません。現実には、『売却代金から諸費用を配分する』というやり方をしています。つまり、手出しをしなかった売却にかかる費用は、相談者(売主)の残債務となることを意味します。
ただし、任意売却の際に自己破産をした場合は、この諸費用は結果的に債権者側の負担となります。
任意売却で必要な諸費用の内訳や金額を知りたい
任意売却に限らず、不動産を仲介業者介入のもとに売買するときには、以下の費用が必要です。
1)仲介手数料(最大で売却額の3%+6万円・税別)
2)司法書士費用(権利証がある場合で3~5万程度)
3)滞納した管理費・修繕積立金(上限あり)
4)滞納した税金(物件に仮差押えがある場合に限る)
売却代金の配分とはどのように行われるのか?
売却代金が1000万円、ローン残高が1200万円の場合
<配分のため控除される額・概算>
1)仲介手数料 396000円
2)司法書士費用 30000円
3)租税納付 100000円
4)管理費滞納分100000円
5)引越し代 200000円
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差引で残る917万4000円が債権者の回収額となります。
残債務の額は、1200-917.4=282.6万円となります。
※上記は目安です。引っ越し費用の拠出がない場合もあり、また、遅延損害金も考慮していません。
任意売却で持ち出しは本当にかからないのか?
『印鑑証明書や住民票の取得費用、売買契約書に貼付する印紙代程度は必要』
『租税滞納による仮差押えがある場合、別途現金の用意が必要になる可能性がある』
厳密に申しますと、任意売却で売主が負担する費用はまったくのゼロというわけではなく、役所で取得する本人確認書類の取得費用や印紙代程度は必要、とお考えください。一般的な居宅であれば、数千円から2万円程度の範囲で収まるでしょう。
なお、固定資産税や住民税といった地方税、所得税や国民健康保険料などの国税滞納があり、物件に仮差押えが入っている場合は要注意です。税金滞納による物件の差押えは、競売処分になってしまう最大の原因とも言えます。自治体や担当者によっては、任意売却の配分による一部の納付では差押え解除に応じてもらえないことがよく生じています。その場合は、配分以外の納付を売主が用意しないと任意売却自体ができなくなるのです。税金の滞納額があまりに高額な場合、任意売却自体が難しいとなる理由はこのためです。
最後に:ネットに書いてある通りと信じていいのか?
『任意売却実績のある仲介業者に依頼しましょう』
うまい話には気をつけろ。は、誰もが知っていることです。任意売却は万事を解決する魔法の杖でもなければ、引越し費用や滞納した税金を出してくれる打ち出の小づちでもありません。ましてや、多額の引越し代など約束できるわけもありません。甘言で誘う業者には注意してください。
任意売却は「ローン破綻して本来は競売で処分されるはずの物件」を、「金融機関の許可のもとに担保割れのまま市場で売却する」ものです。相談者は物件の所有者であり売主ですが、主導権は債権者が持ちます。こういった任意売却の事実を伝え、任意売却業者ができること、債務者が自助努力としてしなければならないことを説明する業者こそ信用に値するのです。