任意売却すると、自己破産となるのか?
住宅ローンの返済に困り、何か月も返済をしていない。今後も払えそうにない。そんな状態に陥った方は、自宅などの資産を処分して残債を返す方法を考えなくてはいけません。放置していると、競売にかけられるからです。競売を避ける手段として、任意売却があります。任意売却のほとんどは、売っても借金が残るので、どうしても自己破産が頭をよぎります。ここでは、
「任意売却とは、自己破産なのか?」
「自己破産だけは避けたい。無理なのか?」
「賃貸に移ったあと、残ったローンを払う余裕などない。」
「自己破産で子どもや家族に影響が出ないのか?」
といった数ある疑問のなかで、できるだけ簡潔に答えていきます。
まず、上記の質問の回答をまとめると、以下となります。
1)任意売却と自己破産は、まったく違う法律上の手続きである
2)残った借金を返す覚悟があれば、自己破産は必須ではない
3)ただし、残債の支払いが難しい場合は、自己破産を含む債務整理も大切な選択肢となる。
4)自己破産による影響は原則本人のみ。ただし、生計を同じにする家族については、調査が及ぶことがある。
5)滞納でも債務整理でも、保証人への影響は免れることはできない。

- この記事の監修者
- 富永 順三 任意売却119番・代表コンサルタント
- 宅地建物取引士
20年の経験を持つ専門家が、解決策を無料でご提案します。
任意売却をしても自己破産は回避できる
「自己破産をしたくないならば、しなくてもいい。」
この言葉に驚かれたかもしれません。しかし、これは事実です。任意売却をしたからといって、必ず自己破産をしなければならない、という法律はどこにもありません。
実際、任意売却をされた方のうち、自己破産を選ばれる方は少数派です。多くの方は、債権者(銀行など)と交渉して、残った借金(残債務)を無理のない範囲で少しずつ返済していく道を選んでいます。
任意売却で残った借金は支払い義務がある
残念ながら、任意売却で自宅を売ったとしても、残ってしまった住宅ローンは自動的に消えることはありません。
例えば、住宅ローンが3,000万円残っているご自宅を、2,500万円で任意売却できたとしましょう。この場合、500万円が残債務として残ります。この500万円については、引き続き債権者に返済していく義務が残ります。
「どうせ時効になるだろう」と放置しても、債権者が時効を更新する手続きを取るため、期待しない方が良いでしょう。
任意売却後に自己破産を選ぶ「本当の理由」
任意売却後に自己破産を選ぶ方がいるのは、次の2つの理由があるからです。
① 残債務の返済が、現実的に難しいから
自宅を失い、家賃を支払って賃貸に移った後、残った住宅ローンを毎月返済し続けるのは、経済的に非常に厳しい現実があります。
もし、残債務が100万円や200万円程度で、毎月数万円ずつ無理なく返せる見込みがあれば、自己破産は避けることができます。しかし、これが1,000万円を超えるような場合は、自己破産を検討せざるを得ない状況になります。
② 自己破産で手続きや費用を軽くしたいから
自己破産の手続きには、「同時廃止」と「管財事件」の2種類があり、「同時廃止」の方が手続きが簡単で、費用も安く済みます。
| 同時廃止 | 管財事件 | |
| 適用されるケース | 破産者にめぼしい財産がない(例:現金が99万円以下、自宅などの不動産がない) | 一定以上の財産がある(例:不動産、20万円以上の価値がある車、99万円を超える現金など)。または、借金の原因に問題がある場合(ギャンブルなど) |
| 手続きの期間 | 3ヶ月~6ヶ月程度(短期間で終了しやすい) | 6ヶ月~1年程度(財産の調査や換価に時間がかかる) |
| 裁判所への費用(予納金) | 数万円程度(裁判所によって異なりますが、比較的安価) | 20万円~50万円以上。(管財人への報酬が必要なため高額になる) |
| 任意売却との関係 | 任意売却を先に済ませることで、財産がないと判断されやすくなり、同時廃止になる可能性が高まる。 | 自宅などの不動産が残っている場合、通常はこの手続きになる。 |
上記の通り、任意売却を先に済ませておくことで、自己破産の手続きの際に「処分すべき高価な財産がない」と判断されやすくなります。結果として、同時廃止になる可能性が高まり、手続きの負担や費用を大きく抑えることができるのです。
このため、多くの弁護士は、「どうせ自己破産をするなら、任意売却を先に完了させてから手続きに入る」ことを提案することが多いのです。
任意売却か自己破産、どちらも新しい借入はできない
共通するデメリットは「新規の借入やカード契約ができない」ことです。
任意売却で残債が残ってしまった場合も、自己破産をした場合も、ご自身の信用情報にその記録が登録されます。一般に「ブラックリストに載る」と呼ばれる状態です。
この状態になると、原則として5年間から10年間は、新しい住宅ローンや車のローンを組んだり、クレジットカードを新規で作ったりすることが非常に難しくなります。任意売却をして残債を返済している場合でも、自己破産を選んだ場合でも、このデメリットは基本的に避けられません。
ただし、自己破産を選んだ場合は、裁判所発行の「官報」にも名前が掲載されますが、これは一般の人が目にする機会はほとんどありません。また、制限を受ける職業があるのも、破産手続き中の約3ヶ月間程度だけです。過度に恐れる必要はありません。
大切なのは、「経済的な再スタートのために、どの道を選ぶか」ということです。自己破産は、法律が認めた経済的な助け舟であり、人生の終わりではありません。専門家とよく相談して、ご自身にとって最も負担の少ない道を選んでくださいね。
▶ 関連記事:任意売却するとブラックリストに載る?信用情報への影響は?
任意売却後の残った借金(残債)はどうなる?
任意売却で自宅を売却した後、残った借金(残債)をどう返済していくか、が次の課題になります。もちろん、自己破産という選択肢もありますが、それだけが道ではありません。
ここでは、みなさんが抱く三大質問にお答えするとともに、自己破産以外の具体的な残債処理の方法を紹介します。
Q:残債の交渉ってどうするの?
A: 不動産会社が債権者と「分割返済」の交渉をします
たとえば、残債が500万円あり、これまで毎月15万円のローン返済で苦しんでいたとしましょう。
このとき、債権者と交渉し、「引っ越し後の家賃を払うと、月に3万円しか返済に回せない」と伝えます。債権者側も、自己破産されて借金がゼロになるよりは、少しでも返済してもらった方が良いため、この3万円での分割返済に応じてくれるケースが多いです。ただし、金利の減免は難しく、利息分も考慮した上での返済計画になります。
残債処理の選択肢は3つあります
自己破産をせず、残債務を処理するための選択肢は、主に以下の3つがあります。
- 任意整理:債権者と直接話し合い、将来の利息をカットしてもらったり、返済期間を延ばしてもらったりして、残債務の負担を軽くする方法です。多くの場合、弁護士が代理人となって交渉を進めます。
- 特定調停:裁判所が間に入り、債務者と債権者の話し合いを仲介することで、返済計画を立て直す方法です。ご自身で手続きを進めることも可能ですが、手間はかかります。
- 自己破産:裁判所に申し立て、財産の多くを手放す代わりに、すべての借金(税金などを除く)を免除してもらう方法です。経済的なリスタートには最も強力な手段です。
ご自身の経済状況や、どうしても守りたいもの(自己破産による資格制限を避けたいなど)に応じて、どの方法が最適かを専門家と検討することが大切です。
▶ 関連記事:任意売却後の債務整理はどうすべき?6つの方法と注意点
Q:私が自己破産をすれば、連帯保証人の借金も消えますか?
A:いいえ、主債務者(あなた)の借金だけが消えます。連帯保証人への請求は続きます。
自己破産などの債務整理は、「個人単位」で効力が及びます。契約全体がなかったことになるわけではありません。
そのため、主債務者であるあなたが自己破産して借金がゼロになったとしても、その借金は「契約上の責任者」である連帯保証人や連帯債務者へと自動的に引き継がれてしまいます。
あなたが自己破産の手続きに入った瞬間から、債権者からの残債の一括返済の請求は、保証人のもとへ移ってしまいます。連帯保証人への影響は、どうしても免れることができません。
なお、主債務者が破産したからといって、保証人まで自己破産しなければならない、ということはありません。保証人の方も、残債務について「任意整理」や「分割返済の交渉」など、別の手段を取ることは可能です。
▶ 関連記事:任意売却後の残債はどうなる?払えない時の対処や時効について
Q:自己破産したいけれど、弁護士費用が用意できません。
A:多くの弁護士は費用の「分納」に応じてくれます。
自己破産を検討されている方は、当然ながら経済的に困窮している状態です。そのため、多くの弁護士事務所では、費用の分割払い(分納)に対応してくれます。
さらに、弁護士に正式に依頼し、弁護士が手続きを始めた(受任した)時点で、あなたへのすべての借入先からの請求や連絡がストップします。これを「受任通知」と呼びます。
これにより、それまで支払いに充てていたお金を、弁護士費用の分割払いや、当面の生活費に回すことができるようになります。
なお、任意売却119番は弁護士と提携しており、無料相談も可能です(目安1時間/要予約)。詳しくは「任意売却をする際に弁護士に相談すべき場面 」をご覧ください。
任意売却の心配事|保証人への影響について
任意売却や自己破産を検討する際、ご自身の次に大きな心配事となるのが、連帯保証人や連帯債務者といった「保証人」への影響ではないでしょうか。
保証人への影響、最低限知っておくべきこと
- 残債務の請求: あなたが返済をできなくなると、残った借金はすべて保証人に請求されます。
- 信用情報(ブラックリスト): あなたが滞納したり、自己破産したりすると、保証人もゆくゆく信用情報に影響が出てしまう可能性が高いです。
- 任意売却への協力: 任意売却を行う際、売却後の残債務について話し合い、売買契約書に署名や押印などの協力が必要です。そのため、保証人との連絡が取れないと、任意売却の手続き自体が難しくなります。
保証人への影響を最小限にするためには、「借金を完済する」か、もしくは「滞納する前に保証人と今後の対策について話し合う」しかありません。
▶ 関連記事:任意売却の際、連帯保証人の協力は必須なのか?
まとめ:任意売却後の不安を乗り越えるために
ここまで、任意売却と自己破産は別物であること、そして残債処理には複数の選択肢があることをお伝えしてきました。
この記事の最重要ポイント
最後に、あなたの不安を解消するための最重要ポイントを改めてまとめます。
- 任意売却 ≠ 自己破産: 家を売っても、残債の返済方法を選べます。自己破産は「必須」ではありません。
- 残債処理の選択肢: 経済的な状況に応じて、自己破産以外にも「任意整理」などで残債の負担を軽くできる可能性があります。
- 同時廃止のメリット: もし自己破産を選ぶなら、任意売却を先に済ませておくことで、手続きが「同時廃止」となり、費用を抑えられる可能性が高まります。
- 保証人への連絡: 保証人への影響は避けられません。任意売却を進める上で、必ず事前に状況を伝え、協力を得ることが重要です。
迷ったら、すぐに専門家へご相談ください
借金問題は、放っておいても解決しません。また、一人で悩むと精神的にも参ってしまいます。
ご自身だけで判断しようとせず、弁護士や任意売却を専門とする不動産会社といった専門家へ相談してください。早ければ早いほど、選べる選択肢が広がり、最良の解決策を見つけやすくなります。
弁護士費用がない場合でも、ほとんどの事務所が分割払いに応じてくれますので、安心して一歩踏み出してくださいね。
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