任意売却の相談先:不動産会社、銀行それとも、弁護士?
住宅ローンが払えない時は、どこの誰に相談すればいいの?
転職で収入が減った、離婚で生活設計が狂った。病気や事故、親の介護で働けなくなってしまった…長期間にわたる返済の中で、さまざまな事情が発生します。ローンは払えないうえ、売ろうとしても、借金のほうが多くて売ることすらできない。そんな場合、検討するのが任意売却です。でも、誰にでも相談できることではありません。相談先は、あなたの状況と方針によって変わります。まずは、どうしたいのか?を自分に問うことで、どこへ連絡を入れるのが適切かを説明します。
◆希望別相談先:あなたがまず相談する先をお答えします
1)家を手放したくない
このままだといずれ、ローンが払えなくなり、滞納してしまう…でも、家は守りたい。ローンの完済を目指したい。そんな方はまず、借入先に「リスケジュール(返済計画の見直し)」を申し出ましょう。
リスケジュールとは、返済計画の変更です。いくつか種類がありますが、ローン返済が厳しい場合は、”支払い期間を延長して、月々の支払額を減らす”プランを申し出ます。交渉先は、ローンの貸し手(債権者)または、引き落とし口座店の窓口です。計画変更には、審査があるので、数か月余裕をもって相談に行きましょう。この場合、ローンの名義人(主債務者)が申し出ないといけません。
なお、返済計画の変更に応じてもらえない場合、それまでの支払いを頑張って続ける、無理はせず手放すか、の選択となります。家をあきらめるのは辛いことですが、家のローンが払いきれない以上、差押えを受けて競売を待つよりは、任意売却でできるだけ有利に売却するほうが現実的でしょう。
2)弁護士
弁護士は住宅ローンを含め、借金の相談をした場合、基本的に自己破産などの債務整理を提案します。
特に、カードローンや消費者金融の借入がこれ以上できないほどの多重債務に陥っている場合は、ほとんど自己破産を勧められることでしょう。
なお、上記の場合でも、住宅ローンをそのまま維持し、他の借金を大幅に減額する、「個人再生・住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」の活用を相談するのもひとつの手段です。この計画を裁判所に認めてもらうには、要件がいくつもあり、ハードルが高いと言えます。その分弁護士費用も自己破産より高くなります。大事な資金や時間と手間を守るためにも、事前に弁護士の見立てを確認しましょう。
ワンポイントアドバイス:弁護士に頼んでも、競売の取り下げはできません!
”住宅ローンを滞納しており、競売開始決定通知が届いた。弁護士に頼んで取り下げしてもらいたい。”との相談は、よく受けます。結論から言えば、弁護士が介入しても、競売は消えません。
競売を取り下げるには、申し立てた側が要求する資金を期限までに払わなくてはなりません。
弁護士費用や、取り下げに必要な資金もない状態で、競売だけを取り消すことは誰にもできません。競売は、裁判所が認めた手続きですので、交渉だけで取り下げになることはありません。
3)不動産会社
世間では、不動産会社の評価は芳しくありません。私どもも、明らかに経営姿勢に問題のある不動産会社があることを知っております。ただ、ご理解いただきたいのは、どの業界でも一部の悪業が全体の評価を下げる、という構図があることです。政治、芸能界しかり。人々の安全や社会規範を先導する立場の公職でも、悪事が露見することは少なくありません。重要なのは、あなたと任せる相手です。
さて、こと任意売却を相談する場合、どの業者がいいのか?という点ですが、これは第一に”実績”、第二に”ホスピタリティー”と言えるでしょう。
任意売却は、どの不動産取引業の免許を持っていれば、本来はどこでもできるのですが、「任意売却は対応しない」先も多いようです。実は、任意売却は不動産業者にとっては、通常の売却と比べると、かなり手間のかかる仕事になります。また、相応の経験と実績も必要です。理由は、金融機関との折衝があるためです。さらに第二抵当権者や租税の滞納などによる差押えがついていれば、その全関係者との交渉をすることになります。
任意売却に経験値の高い不動産業者であれば、ほとんどの質問によどみなく回答できるでしょうし、相談者の要望にどこまでなら応えることができそうか、の見立てもできます。
ワンポイントアドバイス:「依頼先は大手で、高い査定がいい」の落とし穴
業者選びの際、「大手の不動産会社がいい」「見積りが高いところがいい」という希望もよく伺います。
それは、大手なら安心できそう、といったイメージからくるものでしょう。また、見積り(査定)価格が一番高いところに依頼したい。これも後に残る借金をできるだけ減らしたいことを考えれば、無理もない話です。
任意売却は、時価で成約することを前提としますが、それは”市場価値”を理解している必要があります。媒介契約を結ぶために、いたずらに高い金額で査定回答をする、逆に不当に安い価格を言う。所有者の希望価格で「取りあえず売り出してみましょう。」と言う担当者。なぜこの値段かと聞いても、査定根拠があいまいである。いずれも任意売却には不適切な考え方です。
注意:ネットの売り出しは、”希望価格”でしかない
不動産が任意売却で売れなければ、最後は競売で処分されてしまいます。制限期間内に、債権者が納得する価格で買い手を見つける。これが任意売却の最大の目的です。月に何度かは、「一番査定額の高い業者に依頼したが、競売申立てがなされ、もう降りる、と言われた。ここから業者をおたくに変えるので、やってもらえますか?」という相談を受けます。サポートはできますが、競売申立前からと比べると、その成功率は格段に下がってしまいます。理由は、時間が短いこと、そして金融機関の目線が以前と異なるためです。
『高すぎる査定は、店晒し・競売の元凶』
金融機関も高い査定額を聞けば当然、その金額で売るよう指示します。売り出しても買い手が全く現れる様子がない場合、多少価格を譲歩しますが、大きくは見直さないものです。最初が肝心です。あとで説明しますが、不当に安く売られるわけではないのが任意売却です。
売りたい値段ではなく、売れる金額(市場価格)は一体いくらなのか?スタート地点で出る価格が非常に大事なポイントになります。
【おすすめ】応用パターン:債務整理と任意売却を併用する
『自己破産だけは絶対にしたくない』…するしないは、あなたが決めていいのです。ただし、家を手放し、生活の抜本的な立て直しを目指すならば、”任意売却+債務整理”が最も確実性が高いでしょう。
実は、債務整理には、多くのメリットがあります。そして、任意売却と、債務整理をするデメリットには、そう大きな違いはありません。債務整理をするタイミングは、任意売却前でも後でも構いませんが、併用する方法もあります。
任意売却+債務整理の7大メリット:
メリット1:督促を受けずに済む…弁護士が代理人となることで、あらゆる金融機関からの督促が来なくなります。今後の生活再建に集中できます。
メリット2:生活の立て直しがスムーズ…債務整理は弁護士、任意売却は不動産会社に依頼することで、滞納中も当面は自宅に住みながら今後の生活の立て直しに集中できます。自己破産であれば、免責が認められると借金はなくなりますので、ゼロからのスタートを切ることができます。
メリット3:ブラックリスト期間が短縮できる…信用情報の登録抹消は、債務の解消から5年です。債務整理により、借金が解決していれば、より早期に新たな借入ができる可能性があります。実際、一度自己破産をして、2度目の住宅ローンを組んでいらっしゃる方も少なからず存在します。
お子さんの進学の際、教育ローンを利用したい、奨学金の連帯保証人になる、という場合は、早めに借金に決着をつけておくことで、お子さんの将来の選択肢が広がります。
メリット4:引っ越し費用を出してもらえる可能性が高い…最近は、引っ越し費用の拠出に難色を示す金融機関が増えています。ただし、自己破産などの債務整理を伴った任意売却の場合は、実費程度の引越し代配分に応じる金融機関が複数あります。
メリット5:給与差押えの心配がない…弁護士による一定の管理のもと、これまでの生活を続けていくことが可能です。
メリット6:退職金の多くを守ることができる可能性が高い…申請のタイミングにもよりますが、現役時代に決断するほうが有利なケースが多いと言えます。
メリット7:将来の相続も安心…任意売却前後に、ローン残債について完結のメドをつけておけば、その後に相続などで財産を得ても、失う心配がありません。また、生存中に返しきれない借金は、そのまま相続財産となり、配偶者や子供、親兄弟、あるいは甥姪にまで波及する可能性があります。自分の中でこの借金に決着をつけるならば、債務整理は有用な手段と言えるのではないでしょうか。
☆どの弁護士も任意売却に積極的なわけではない
弁護士によって、任意売却への意見は異なります。
任意売却否定(興味がない)派の先生は、「債務整理するならば、家がいくらで売れようが関係ない」というのが、主な見解のようです。しかし、人にはそれぞれ想いがあります。私どもは、任意売却に理解があり、事情によっては弁護士費用の分納にも応じる、親身な先生方との連携があります。まずは、同じ債務整理でもいくつかの選択肢があったり、有利な進め方があるのです。
※ワンポイントアドバイス※
債務整理は自己破産だけではありません。職業の制限を受けない、個人再生もあります。各種債務整理には、それぞれ要件がありますので、事前に弁護士などに相談をして、ご自身に合った再生を果たしましょう。
FAQ集 相談はしたいけれど、不安や疑問がある。そんな方に代表的な質問にお答えします。
◆任意売却だと安く叩き売られないのでしょうか?
結論を申せば、「それはできません」。
理由は、債権者(ローンの貸し手)が安く売ることに応じないからです。債権者もできるだけ高く売ることを目指すからこそ、任意売却に応じるのです。
◆持主(所有者)の私が値段を決めたい
これは少し微妙な点です。所有者の意向は無視されるわけではありませんが、任意売却の場合、値段決めをするのは原則的に債権者です。ローンを滞らせている以上、任意売却時の主導権は、競売もできる債権者にあり、所有者は主従で言えば、従の立場となります。
例えば、住宅ローン残債が2000万円あり、債権者が1000万円で売却に応じましょう、との回答があった。でも、あなたは1500万で売りたい、とします。債権者は1000万以上で売れればいいので、1500万円で売却できれば当然了承します。ただし、債権者が1000万と回答している場合、物件の価値は1000万円でも高いかもしれません。というのは、債権回収の目線で考えているため、傾向として高値で査定を出しがちなためです。
そこで持主の希望通り1500万円で売り出して、買い手がつくかどうかです。おそらく、売れないまま時間切れとなり、競売で処分となるでしょう。このように、市場価格を無視した希望ありきの任意売却は、競売で終わる可能性を高めるだけです。
◆不動産の価格はどうやって決まるの?
不動産は貴金属同様、実際の価値が市場性に大きく左右されます。
例として、希望小売価格つまり持ち主が売りたい値段が1億円の不動産があるとします。
売主の価格根拠はこうです。
「この家は平成3年の時に6億で買った家」
「こだわりの内装に加え、大手ハウスメーカー施工」
「外車が4台停められる広い庭もある。サウナもついている。」
「不動産会社に勤める友人が、言い値で2億でも安いと言っていた。」
と、立て板に水のような説明を受けたとしましょう。
その物件が1億円の価値が充分にあり、買える人資力のある方が見に来ても、まず、欲しいと思うかどうかです。こだわりの内装は好みに合わないかもしれません。広い庭も庭師に手入れしてもらわないといけないようなものだったり、サウナ使用にはそれなりに費用がかかります。言い値の2億は、いつの話かも分かりませんし、価格の根拠も不明です。
不動産の価格要因は、主に以下と言えるでしょう。
・地域(エリア:人口動態、将来性など)
・場所(物件がある自治体の都市計画やインフラ、接道など)
・物件内容と状態(建物の利用形態、管理状態)
つまり、「みんなが欲しがるような家」でも、東京都23区内、ほとんど人の住んでいない地域にあるのとでは、市場性は全く異なります。都会であれば、駅徒歩圏内なのか、バスなのか。周辺環境や施設はどうか。都市計画区域内かどうか?上下水道は?といった点を調査し、価格に反映させていきます。また、いい場所にあっても、一般的な家と工場では、買い手候補の数は大きく変わります。
弁護士は基本、不動産の仲介業務には対応しません。
みなさんは、お腹の調子が悪い時、歯科医師や心臓疾患を専門とする医者には相談しませんね。
よって、餅は餅屋のとおり、不動産のことは、不動産屋に聞け、となります。
任意売却は、任意売却に特化あるいは実績のある不動産会社に相談・依頼するのが最も賢明という理由がお分かりいただけたでしょうか。