『老後破綻』…年金生活になっても払い続ける住宅ローン
終わらない住宅ローンと年金生活
◆人生すごろくの終焉
自宅を現金一括で買う人はごく稀でしょう。今や自宅を買う際に、ローンを利用するのは当たり前です。就職、結婚を経て、子を養いはじめると次に家を買う。妻は家事と子育ての合間にパートに出て家計を助け、夫の定年退職を機に住宅ローンを完済、年金生活に突入する…こんな人生モデルが闊歩していました。
しかし、この”既定路線”ともいえる人生は、とっくに終焉しているように思えてなりません。持ち家購入における社会環境は、住宅ローンが浸透した昭和時代からすでに元号を2回改め、すっかり変わっています。
日本で住宅ローンが浸透し始めたのは、今の住宅金融支援機構が昭和25年に発足を経て、前回の東京オリンピックが開催された頃からと言われています。その頃は経済も右肩上がり、バブル経済にならずとも、買った値段以上で中古の家が売れる、ということは当たり前の時代でした。
◆パラダイムシフトが必要な現在
終身雇用制度が安定していた日本において、サラリーマンとなって結婚し、30-40代で住宅ローンを組み、定年までに住宅ローンを完済。年金を受給して老後の生活を送る、これが一般的な日本人の人生設計でした。
しかし、平成に入って以降、グローバル化のあおりを受け、社会的な格差は広がっていくのに伴い、終身雇用制度は崩壊しつつあります。すでに従来の人生設計プランは『期待』でしかありません。現役時代に、多額の住宅ローンを組んだことで、老後生活の段階で貧困に陥ってしまう人も数多くいるのです。
◆人生の三大出費:住宅・教育資金・老後資金
家をローンで買う人は、他の出費も大きくなる傾向があります。家、保険、教育、車…。なかでも家は金額が大きく換金性が高くないため、見込みが違ったからといって、見直しが難しいものです。
1.住宅ローンを完済できない人は、どの程度いるのか?
住宅ローンに限らず、債権は金融機関内で格付けされています。正常先、要注意先、破綻懸念(要管理)先、実質破綻先…。引落しに遅れが出たり、滞納が数か月続くと、その情報はすべて登録され、金融機関同士の情報網である、信用情報で共有されています。
民間の金融機関では、住宅ローンの破綻率について、明確なデータは出していないようです。政府系の金融機関である、住宅金融支援機構が発表している数字をひもとくと、近年では約2%の人が住宅ローン滞納を起こしているもの、と読み取れます。50軒に1軒とすれば、決して少ない割合とは言えないのではないでしょうか。
2.他人事ではない住宅ローン滞納
では、住宅ローンを完済できなくなる理由には、どんなものがあるのでしょうか。実は、身近で起きているようなことばかりなのです。
2-1.収入減:転職、定年、退職、失職
転職をして収入が下がった…。割合としては、最も多いものです。
勤務先の経営が悪化して収入が大幅に下がった、健康上の都合で仕事を辞めたので収入がなくなってしまった…働き方改革で残業代がなくなってしまった…。思いもよらぬ収入減が原因で、ローンを滞納しだすケースは、枚挙にいとまがありません。
また、離婚による世帯収入の減少も近年は増える一方です。共稼ぎ夫婦が離婚をすると、住まいも別々となり、生活費も割高になるうえ、別途子の養育費などの支払いがあると、すぐさま家計を圧迫します。
2-2.ゆとりローン・ステップローンなど、高金利時代の住宅ローン
現在の住宅金融支援機構が提供していた住宅ローンに、「ゆとりローン」・「ステップローン」というものがありました。平成一桁時代は、今と比較して金利が高く、不動産価格も割高でした。長らくデフレ経済が続き、収入の頭打ちと不動産価格の下落を引き起こしました。
平成一桁時代までに自宅を購入した人は、その後の不景気、高止まりのローン残高、物件価値の下落に見舞われ、借り換えもできず、ただ重いローン負担に耐え忍ぶほかありませんでした。ここでローンを頑張ると、老後の準備ができない、という方も少なくなかったようです。
2-3.退職金の激減や廃止
終身雇用と退職金。サラリーマンが”人生の上がり”として頼ってきた制度です。一般的なサラリーマンでも、退職時には2000万円以上の退職金が出ることは珍しくなく、定年時に住宅ローンを完済できていました。今や老後は年金だけで生活できる、という「サラリーマンのモデルケース」は、当たり前ではなくなっています。実際、街に出てみると、驚くほどたくさんの高齢者が仕事にいそしんでいらっしゃいます。
大手企業も例外ではなく、退職金制度を廃止したり、自身で運用をしていくよう制度を変えつつあります。また、大学卒業後から定年まで勤め上げたとしても、退職金は近年、大幅に減少しつつあります。
【参考】年金生活をしているお年寄り世帯のお財布事情をさぐる(2021年公開版)
3.長生きのリスク:老後破綻
超高齢化社会を迎え、年金受給開始年齢の引き上げ、高齢者の社会保障費の一部負担額の増額、と老後生活を脅かす要素には事欠きません。老後生活に入っても住宅ローンを抱えていると、以下のようなリスクがあります。
・現役時代の収入はまず見込めない
・ちょっとした病気やケガが生活破綻のきっかけになりやすい
・団体信用生命保険が失効する(上限年齢を越えると、亡くなっても保険が下りない)
・意思能力を失うと、諸手続きが困難になる
3-1.年金に頼れない
現在、日本は少子高齢化社会に陥っており、年金制度の支給開始年齢は段階的に上がってきています。以前は60歳だったものが、今後は68歳。そのため、定年退職後もできるだけ働く必要に迫られている人は多いことでしょう。元気で働ける場所がある人はまだまし、と言えるのかもしれません。定年後も住宅ローンが残っている場合は、健康管理に一層気をつけながら、収入確保に務めることになります。
3-2.非正規社員の増加や社会保険料の増額
社会構造の変化により、専門職であっても、非正規社員が増加しています。『3回転職、非正規雇用』と言われるほど、転職=非正規雇用・収入減、という傾向があります。
職を変える前に、大きな住宅ローンを組んでいると、人生をも縛られることになります。加えて、価格の下がりやすい新築住宅を購入していると、よほど頭金を入れていない限り、大きなオーバーローンとなり、「払えない・売れない」のスパイラルに陥ってしまいがちです。
4.昭和モデルからの脱却:家を買う時代は終焉しつつある
4-1.持ち家は必需品でも財産でもない
住宅・土地統計調査(総務省)によれば、空き家の総数は、この20年で1.8倍(448万戸→820万戸)に増え、「賃貸用又は売却用の住宅」等を除いた、「その他の住宅」(いわゆる「その他空き家」)がこの20年で2.1倍(149万戸→318万戸)に増加しています。
日本はすでに、出生数が死亡数を下回る、人口減となっているため、空家は今後も増えていくと思われます。にも関わらず、新築住宅が毎年100万戸前後増えています。
住宅ローンが払えなくなって、任意売却をする際には、売れるのかどうか。地域や物件内容によっては、売り出してもなかなか買い手がつかない将来も容易に想像できるのです。
4-2.任意売却後、家は借りられるのか?
『任意売却後、賃貸物件は見つかるのか?』と、質問をよくお受けします。これらのデータを見る限りでも、そう心配はない、と考えることができますし、今後はますますその傾向が強まるでしょう。また、これまでも任意売却後はほとんどの方が賃貸物件に移られています。少なくとも私ども知る限り、任意売却をした後、路頭に迷ったりホームレスになった、というケースはありません。