任意売却すると、自己破産となるのか?
任意売却すると、自己破産となるのか?
◆任意売却と債務整理(自己破産など)の関係
住宅ローンの返済に困り、何か月も返済をしていない。今後も払えそうにない。そんな状態に陥った方は、自宅などの資産を処分して残債を返す方法を考えなくてはいけません。放置していると、競売にかけられるからです。競売を避ける手段として、任意売却があります。任意売却のほとんどは、売っても借金が残るので、どうしても自己破産が頭をよぎります。ここでは、
「任意売却とは、自己破産なのか?」
「自己破産だけは避けたい。無理なのか?」
「賃貸に移ったあと、残ったローンを払う余裕などない。」
「自己破産で子どもや家族に影響が出ないのか?」
といった数ある疑問のなかで、できるだけ簡潔に答えていきます。
まず、上記の質問の回答をまとめると、以下となります。
1)任意売却と自己破産は全く違う話である
2)残債支払いを覚悟すれば、自己破産は必須ではない
3)売却後、残債の支払いが難しい、相続で借金を家族に負担させたくない場合は、債務整理も一考
4)自己破産による影響は原則本人のみ。
ただし、生計を同じにする家族については、調査が及ぶことがある。
5)滞納でも債務整理でも、保証人への影響は免れることはできない。
1.任意売却と自己破産は別物
「自己破産をしたくないならば、しなくてもいい。」
驚かれるかもしれませんが、実際、任意売却をしたからといって、自己破産をする人は少数派でしょう。多くの方は、残債務は交渉を経て、少しずつ支払っています。
1-1.任意売却で残った借金は支払い義務がある
任意売却をして残った住宅ローンは消えません。
放置していれば、そのうち時効にかかるのでは、ということも期待しないほうがいいでしょう。
1-2.任意売却のデメリットは、自己破産とほぼ同じ
共通するデメリットは「新規借入ができない」。
任意売却と自己破産の共通かつ最大のデメリットは、「当面、新規の借り入れやクレジットカード契約ができない」ことです。
任意売却だけでは、裁判所や弁護士の介入がないこと、そして一般に家の所有権以外は手放す必要はありません。
また、自己破産をしてしまうと、いわゆる信用情報にその記録が登録されます。また、裁判所発行の官報にもその名が掲載されます。原則5年を登録期間と定めています。
参考:JBA 一般社団法人 日本銀行協会「登録情報開示報告書の見方について」
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/pcic/open/kaiji_viewpoint.pdf
(2019年3月発行)
よって、債務整理後は少なくとも5年間は、新規のローンを組むことができません。クレジットカードの新規作成も難しくなります。それは任意売却をした場合でも同じです。
また、破産をすると、一部の職業に就くことができません。ただし、免責が受けられるとその仕事も再開できます。制限を受ける期間は、3か月程度が目安です。
1-3.自己破産と任意売却は並行でも可能
よく、「任意売却を先にしたほうが弁護士費用が抑えられますよね?」「任意売却後に自己破産をすれば同時廃止(※)になりますよね?」という質問を受けます。
厳密に言えば、先に任意売却をするために住宅ローンを滞納し、その他の返済は続けていくのは、偏頗弁済(偏って支払いをすること)に当たる可能性も否めず、注意が必要です。無用なトラブルを避けるためにも、進めかたについては弁護士に相談しましょう。
同時廃止:破産管財人が選任されず,破産手続の開始と同時に破産事件が廃止されること。破産手続きには、管財事件もあり、これは裁判所によって破産管財人が選任され、破産者の財産を処分して各債権者に配分します。
◆任意売却と自己破産:三大質問に答えます
Q:任意売却すると、自己破産しなければならないのか?
A:自己破産と任意売却は同じではなく、債務整理は必須でもない
住宅ローンを払わないのは、契約違反ですが、罪に問われることはまずありません。いくら借金が多くても、自己破産をしなければならない、という法律もありません。自己破産は、法による経済的再生への助け舟ですので、それを使うか否かは、あなたの自由なのです。よって、任意売却をしたり、借金がいくつも、多額にあっても自己破産を命じられることはありません。
Q:主債務者の私が自己破産をすると、住宅ローンはなくなり、連帯保証人の借金も消えますよね?
A:いいえ。自己破産などの債務整理は、個人単位で効力が及びます。契約全体ではないため、主債務者が自己破産をすると、その債務は連帯保証人や連帯債務者の借金となります。なお、主債務者が自己破産をすると、保証人もそうしなければならないわけではありません。
Q:私は進んで自己破産をしたいのですが、弁護士費用がありません。
A:弁護士に分納を相談しましょう。多くの弁護士は、費用の分割払いに応じます。また、弁護士が代理人に就職(受任)すると、すべての借入先からの請求や連絡が止まるので、それまで支払いに充てていた資金を破産費用や生活費などに回すことが可能になります。経済的にも精神的にも余裕がでますので、多重債務に陥っている場合は特に債務整理をするメリットは大きいと言えるでしょう。
2.任意売却の心配事 ~保証人への影響~
保証人への影響 Q&A
1)保証人は外せないのか?
2)保証人に迷惑をかけたくない。
3)保証人もブラックリストに載るのか?
4)保証人がすでに亡くなっています。
5)保証人と連絡がつきません。
6)保証人に意思能力がありません。
7)保証人が先に自己破産すると借金はどうなりますか?
2-1.保証人には、主債務者と同じ責任があります
実は、任意売却にとって、保証人の存在はかなり重要です。
連帯保証人、連帯債務者といった違いはありますが、実務上は大きな差はありませんので、以下は連帯保証人と連帯債務者を総括して「保証人」します。いずれも、主債務者とほぼ同じ責任を持ちますので、「私が借りた金ではない」「主債務者が迷惑を掛けないと言っていた」といくら掛け合っても、それは徒労に終わります。
1)保証人は外せないのか?
A:まず外せません。これは、弁護士に依頼しようが、裁判を起こそう(提訴自体できないとは思います)が、万が一の際は、主債務者に代わって支払いをします、という契約を結んでいるため、後から事情が変わったからといって、外せるものではありません。
2)保証人に迷惑をかけたくない。
「借金を完済する」「滞納しない」しかありません。主債務者が支払いをしなければ、必然的に保証人に請求がいきます。
3)保証人もブラックリストに載るのか?
はい。主債務者が支払えなくなり、次に請求を受けた保証人も支払いができないと、時期の違いはあっても、ゆくゆく信用情報に滞納した登録がなされます。実際にブラックリストは存在していませんが、金融機関同士で共有している信用情報に、各人の引落しや借入の情報が登録されています。そこに主債務者と同じような登録がなされていくのです。
4)保証人が亡くなっています。任意売却できますか?
相続人の協力が必要です。借金も相続で、法定相続人に相続されます。任意売却の際は、その相続人の協力も必要となります。そのため、”亡父に保証人になってもらった借金で、母と兄弟に迷惑をかけてしまった”というケースも少なくありません。
遺言書や遺産分割協議で借金の相続先をまとめることはできますが、債権者はそれに納得するとは限りません。原則は、法定相続分割合で借金も引き継ぎますので、どうしても故人の借金から逃れたければ、相続放棄することになります。
5)保証人と連絡がつきません/連絡を拒否されています
任意売却は難しくなります。任意売却をする場合、一般に売却後も借金が残りますので、保証人の協力(署名や押印など)は必要です。主債務者の名義の家で、残った借金も自分が払うので、保証人には関係がない、という論法は通りません。
6)保証人に意思能力がありません
この場合、5)の保証人と音信不通である、という状況とほぼ同じです。
保証人が一切の契約行為ができないとなれば、後見人にその対応をしてもらうことになりますが、実際はかなり難しいでしょう。後見人は、被後見人の生活を護ることが使命であり、借金の肩代わりをするといったことには消極的ですし、家庭裁判所も認めるか分かりません。あとは債権者に相談するほかありませんが、原則は保証人の理解が得られないと任意売却ができないので、話を進めるのは非常に困難です。
7)保証人が先に自己破産した場合
連帯保証人が自己破産しても、主債務者が問題なく支払っている場合は、特段の影響は受けません。
ただし、連帯債務者が破産した場合や、持ち分を持つ者が破産をしてしまうと、話がまったく変わります。この場合は、残った所有者単独で借り換えを求められるか、一括返済を求められる可能性が出てきます。いずれにしても、債権者次第ですので、借入先の考えを聞きましょう。
まとめ
不動産は、名義も借り入れも”単独・イズ・ザ・ベスト”。
借金は、人間関係も破綻させる原因になります。自分が借りた金ならば、その責任を問われても仕方はありませんが、借金の恩恵を受けていない保証人が返済を求められても、払いたくないのは当然です。でも現実には、家族や知人の保証人になったばかりに、保証人の人生を狂わせてしまうことも多々あります。借りる際はみな、「人に迷惑は絶対にかけない。返せる。」と思っていますが、現実には、保証人に迷惑をかけてしまう例は、今も昔も枚挙にいとまがありません。
また、共有名義もいろいろなリスクをはらみます。任意売却においては、同意が得られるのか、その売却額で応じるのか、残債務の支払いについてどのような対応を取るのか。これが離婚した元夫婦の名義であったりすると、感情的になることがあります。そのため、共有名義の自宅がある夫婦は、離婚の際、その物件を処分などし、借金についても道筋を立てておく必要があります。物件の処分が、将来に対する一番のリスク対策にもなるケースがほとんどです。