夫名義の家に、妻が住み続ける方法
『住宅ローンが残った夫名義の家。私が住んでもいいですよね?』
”ローンさえ払っていれば大丈夫”は本当か?
『元夫名義の家に、私と子供で住むのは、住宅ローンの契約違反だってことは、知っています。でも、ローンをちゃんと払っていれば、問題ないですよね。現に世間ではそんな例はいくらでもあるでしょう?』
この質問には、私どもは答える立場にありません。ローンの貸し借りは、債権者と債務者との契約です。その契約違反を受け入れるかどうかは、ローンの貸し手の判断です。ローンを滞らせなければ、問題ない、という理屈をどう考えるかは、質問者が貸し手の立場になって考えると分かることです。
たとえば、親族から『子の入院費を貸してほしい。』と、懇願され貸したお金が実は、全く別のことに使われていた。でも、借金は返してくれそうだから、全く気にならない…と考えるかどうか。つまり、結果のみに注目するのか、経緯にもこだわるのか。それはやはり、貸し手側の判断によります。つまり、第三者に聞いても答えようがないのです。
1.”夫名義の家に妻が住み続けたい!”が大多数
夫名義の家。離婚を機に、夫は転居、妻子が住み続ける。住宅ローンがある限り、名義人がその物件に住んでいないのは、契約違反です。妻もできるならば、家は自分のものにしておきたい。そんな時は、以下の方法があります。
1-1.夫名義の家(住宅ローンあり)に元妻が住み続ける方法
1)ローン完済し、所有権を妻に変更する
2)妻名義でローンを借り換える
3)親族間売買をする
4)リースバックを受ける
2.名義人でもなく、賃料も払っていない人は”占有者!?”
まず住宅ローンは、『ローンを借りた本人がその家に住んでいることが条件』の貸出しであることです。夫の名義で住宅ローンの融資を受けた場合、そのローンの名義人、つまり、債務者である夫が家を利用していなければなりません。
そのため、名義人でもなく、ローンを名義人に家賃としても支払っていない人には、何の権利もありません。いわゆる使用貸借であるため、居住権は主張できません。
2-1.金融機関に知れたら、”一括返済請求!?”
契約違反と判断し、ペナルティを課する場合は、『残金の一括返済を求められる』『住宅ローンの優遇金利を外す』『他銀行への借り換えを求める』のいずれかを求められることが多いようです。
『元夫名義の家に長く住み続けて、全く問題のない女友だちがいる!』、『ローンは支払っているのだから、問題ないでしょう?』と仰る方もいますが、その判断はやはり、貸し手である金融機関によります。
断言できるのは、ローンを支払っていれば問題はないはず、ではない。という点です。
実際、離婚を理由に所有者兼債務者が引越したことで、住宅ローン金利の優遇部分を外し、収益不動産としての金利を適用された、という例があります。
2-2.本当に完済まで払い続けてくれるのか?
また、仮に金融機関から契約違反によるペナルティを課せられなかったとしても、自宅を出て行った夫が住宅ローンを支払い続ける保証はどこにもありません。夫の収入が減ったり、新しく結婚して家庭を持ち、住宅ローンを払い続けられなくなったりするのも、よく見られるケースです。『離婚時には、ローンは払い続ける、と約束していた。離婚協議書にもそう記載がある。』と言っても、大きな効力や結果が得られないことがほとんどです。
3.住宅ローンの借換えを行うには
夫名義の家に妻が自宅に残る場合、妻の名義で住宅ローンを借りなおすのが最もいいでしょう。これは、夫婦共有の場合で、妻が住み続ける場合も同じことが言えます。
しかし、住宅ローンを借りるには、当然ですが、金融機関の審査に通らなければなりません。
また、多くは元夫婦間売買の融資には難色を示します。
住宅ローンを借りるには、最低いくらの年収が必要か?は、金融機関にもよります。目安として、年400万円前後あれば、借りる額にもよりますが、大きなローンを組める可能性があります。
妻が離婚前後まで専業主婦や扶養枠内での収入である場合、まず住宅ローンは組めません。離婚後すぐ正社員になったとしても、金融機関は”実績”を求めますので、ローンが組めるのは、収入が安定して1-2年後が目安です。
結婚後も仕事を続けている場合でも、日本の場合、公務員や資格・技術職以外は年収が低いままのことが多く、正社員を続けていても返済比率(収入に対するローン支払い額の割合)で審査に通らないことも多くあります。
4.住宅ローンの返済が難しいときは、任意売却を検討
離婚して世帯収入が下がり、住宅ローンの返済が難しいときは、任意売却という手段を検討してみましょう。これは、ローンが払いきれず、売却時の価格とローン残高との差額が手元現金から出せない場合に用いられる売却方法です。
4-1.離婚時に家を手放すのが最も合理的な理由
不動産を手放せば、将来のリスクを低くする場合も
1)物件繋がりの縁を切る
離婚時に不動産を処分する場合、多くは損切りをしなくてはならないでしょう。法律上は他人となっても、共有財産や債務保証の関係が続いている、というケースは少なくありません。
離婚し別々の道を歩む二人が、家に縛られていては、本当の意味での再出発は困難です。たしかに損切りは勇気のいる決断ですが、『離婚時に処分しておけばよかった。』という声も多くあるのです。
2)借金が減る
家を売却した場合、少なくとも売却代金の諸費用を控除した分は、借金が減ります。生活を仕切りなおすうえで、
自宅の価格がローンの残債を上回っていれば、売却して残った利益を折半することが可能です。ただし、その逆の場合は、マイナス分を誰が負担するのかは、住宅ローンの契約に基づいて考えることになります。
3)将来の選択肢を残すことができることも
住宅ローンは原則1つしか組めません。離婚後、住まない物件のローンを抱えては、新しい家を買うことも難しいうえ、新しい人生のパートナーとの出会いにも影響が及ぶことも。新しい配偶者との家が買えない、と売却を決断する方も多くいます。
実際、再婚を機に住宅ローンの支払いが止まったり、『売却するので出て行ってほしい。』と言われるケースが後を絶ちません。
また、離婚して長い時間を経っている場合は、連絡もせずにローンを滞納し、住んでいる元配偶者に突然”競売開始決定通知”が送られていることもよく耳にします。
5.リースバックで物件と縁を切り、元家族が住み続けられる場合もある
男性側が家の所有者で、離婚後は名義人ではない女性や子供が住み続ける方法の一つとして、『リースバック』があります。
仕組みとしては、夫名義の家を売却し、新しいオーナーと家に住み続ける妻が賃貸借契約を締結して、妻が家賃をオーナーに支払います。
リースバックであれば、物件を処分して債務や権利関係を解消したうえ、住みたい側がその物件の賃借人となるため、関係性も非常にすっきりとしたものになります。
5-1.リースバックは成功するのか?
リースバックは、必ずしも成功するものではありません。ここで、リースバックがうまくいく三要素を挙げます。
リースバックの三大成功ポイント
・物件が便利な場所にある
・物件が一般的な居宅で価格が割安
・賃借人の収入が安定している
リースバック物件は、収益物件として流通しますので、『他の人も借りたがる』『空家になっても転売しやすい』物件に人気が集中します。そして、賃料がきちんと支払われるかどうかも、家主にとっては大きな関心事です。
5-2.任意売却とリースバックは両立するのか?
これは、債権者と買主、売主の三者が合意に至る必要があります。
①債権者が応じる条件で売却をする
②リースバック条件で合意ができる
本来、住宅ローンなどの担保債務は全額返済しなければ不動産は売却できません。任意売却は、ローン支払いが滞納しているので、物件の価格決めは債権者が行います。
一方、買主は、空室リスクの少ないリースバック物件を好みますが、ローンを滞納している方が賃借人となる以上、家賃は滞りなく支払えるのか?という点を追及します。また、家賃の滞納リスクに応じた家賃設定(多くは成約価格の年利10%以上を12か月で割った額)を求めますし、家賃保証会社への加入や普通借家ではなく、定期借家を求めることもあります。
つまり、表面的な条件が合致しても、保証金の差し入れや退去、買戻し期間の指定など、種々条件を出されることがあり、最終的に合意に至るかどうか、という要素もあるのです。
任意売却と併行のリースバック、成功の三要素
1)アンダーローン(ローン残高<物件価格)である
2)賃借人に給与や年金などの安定収入がある
3)賃貸の需要があるエリアに物件がある
つまり、『家を高く売って、家賃は安く』は基本、両立しないのです。
また、賃借人と家主の立場は対等なものですが、お互いに良好な関係を保つようにしましょう。
特に、賃借人になった後の物件は、”自分の所有物ではない”のです。家主の所有物なので、借りている物件として、家賃支払いはもちろん、維持管理にも務めていただきます。
なお、リースバックの場合、家主への修繕費用負担義務は求めない、と定めていることがほとんどです。家の不具合や修理・修繕については、元の所有者である賃借人が負担します。