(44)『任意売却すると自己破産しなければなりませんか?』
任意売却と自己破産は別の話です
任意売却や競売によって家を失ってなお、多くの場合は借金が残ります。その残債は一括で返すよう求められるので、払えなければ自己破産となるのか?とお思いかもしれません。しかし、自己破産は強制されるものではなく、あくまで本人が決めるものです。また、任意売却後、自己破産を選ぶ方は数割程度で、その多くは多重債務者です。
自己破産は手段のひとつ
任意売却119番は自己破産に関して、中立的な考え方をしています。残債を分割払いで返したい方もいますし、いろいろな事情で自己破産が選べない方もいます。
ただ、経済的な合理性を考えると、数十万の費用で、多額の借金をゼロにできる手段は有用なことは間違いありません。そのため相談者には、現状や今後の生活を総合的に考えて決めるのが賢明ですよ、とご案内しています。
自己破産すると、具体的にどんな影響があるのか?
1)職業の制限
一般に他者のお金を扱う仕事は、一定期間その仕事に就くことができません。保険外交員や「~士」とつく職業の多くが対象です。しかし、その他の多くの職業はそのまま仕事を継続できます。
2)移動の制限
海外への渡航や遠方への引越しなど、所在について一定の制限があります。しかし、冠婚葬祭や生活事情などの正当な理由があれば、多くが認められます。
3)借入の制限
債務整理は、信用情報機関に登録がなされます。少なくとも登録から5年は新たな借入や分割払い、クレジットカードの新規作成は困難です。
4)免責の制限
自己破産は何度でもできますが、前回の免責(借金が免除になる)決定から7年以内は、再度の免責決定を受けることができない、という制限があります。
離婚と自己破産:『独力で連帯保証人ではなくなる方法』
離婚に伴う持家の相談で多いのが、連帯保証人のことです。多くは夫が主債務者、妻が連帯保証人というケース。離婚でローンの契約は何の影響も受けないため、他人となっても、責任はついて回ります。
離婚時に”住宅ローンについては、妻の持ち分や債務から外すこと”などを求めても、ほとんどは無駄です。そもそもペアローン以外で連帯保証人や連帯債務者と求められているケースの多くは、夫側に単独でローンを持つ経済力がない、と金融機関に判断されているからです(夫側の経済力に問題なくても、規定で連帯保証人を求める金融機関もあります)。
あるいは、夫がローンや名義の変更に協力的ではない、連絡を一切取りたくない、DVや音信不通などの複雑な事情が絡んでいる場合は、夫がローンを最後まで払うことを期待するほかないのでしょうか。
一つだけ方法があります。それは、連帯保証人が自己破産をしてしまうことです。もちろん、極端な選択肢ですが、主債務者が払うかどうか、などの不安と一緒に責任からも解放されます。主債務者と一切の関わりを断つために、進んで破産を検討なさる方もいるほどです。
自己破産するなら、任意売却に意味はあるの?
自己破産するならば、借金がいくら残ろうが関係ないため、任意売却に意味はない、と考えるのも無理はありません。それでも、任意売却には物件を高く売ること以外に有用な部分があります。債務者にとって、自己破産が前提でもメリットのある点を説明します。
1)売却代金から引越し費用の配分が認められる可能性が高い
近年は、引越し代の拠出に応じない金融機関が増えています。それは、滞納という契約違反をしている債務者に恩恵を与えるべきではない、という考えでもあり、不良債権額を増やす理由も債権者にないためです。
ただし、『原則、引越し代は出さない』としている金融機関のなかには、”破産申請者の場合に限り、引越し代の配分に応じる”というところがあるのです。
2)不動産が管財物とならなければ、破産費用が安い(同時廃止)
破産手続開始決定後、破産管財人が選任されて「管財事件」になると、破産費用は同時廃止のそれと比べて格段に高くなります。また、手続きの時間も長くなります。ただし、管財事件を避ける目的で手段を講じると、免責が認められない可能性も出てくるので、予め弁護士によく相談しましょう。
「同時廃止」と「管財事件」
自己破産という結果は同じでも、手続きをする方にとっては、同時廃止と管財事件はプロセスと費用にかなりの違いが生じます。「同時廃止」は原則、ある一定上の財産がなく、借金のほうが資産を大きく上回る場合に認められることが多いようです。
ただし、近年は借金額と財産額のバランスによらず、ある程度(預貯金なら50万円前後、車や保険の返戻金など20万以上の価値が目安)の資産があると、かなりの確率で管財事件となるので、注意が必要です。費用や進め方については、弁護士などによく相談しておきましょう。
任意売却をするタイミング
自己破産申請と任意売却をするタイミングはかなり大事なポイントになります。一般に、任意売却をしてから自己破産をする、または任意売却成立のメドが立った段階で申請を行うほうが破産費用を抑えられる、と言えます。
任意売却後またはメドが立った際の破産申請であれば、転居の手配も済んでいるでしょうし、滞納していた税金やマンションの管理費などもある程度支払いが進みます。ただし、あまりに高額の租税や管理費などの滞納では、任意売却代金からその費用を出すことに債権者が難色を示すため、注意が必要です。
なお、流通性の悪い物件の場合、任意売却での買い手が見つからず、タイミングを図っても競売となることがありますので、最初から任意売却できるものと考えるのは危険です。まず、私どもによる物件調査を経てから具体的な進め方について提案をお受けください。
主債務者が債務整理…連帯保証人はどうなるのか
債務について保証人がいる場合、主債務者が自己破産すれば、その借金はそのまま連帯保証人に請求がいきます。主債務者が個人再生をすると、圧縮された借金は、連帯保証人へ。
任意売却をするには、連帯保証人の同意が必要です。これは、物件についての債務の責任は認めていますよ、という民法上の「担保価値保存義務」と呼ばれるものです。平たく申せば、担保物件を不当に安く売ったりして、連帯保証人の負担を大きくすることを防ぐ目的で定められています。
この確認をしない、つまり連帯保証人の同意がないまま、任意売却が成功すると、連帯保証人から「この価格で売却することを知っていたら同意しなかった。担保価値の保存(保持)義務の違反だ。」と、民事訴訟を起こされる可能性が出てくるのです。
ただし、金融機関もそのあたりは周到です。貸付の際に、契約書内に「担保保存義務免除特約」がつけられていますので、連帯保証人の同意なく任意売却を進めてもよいことになっています。しかし、のちのちのトラブルを未然に防ぐためにも、実務上では、連帯保証人に「担保解除同意書」への署名押印を求めています。