慰謝料と養育費の支払いで、住宅ローンを滞納しそうです
離婚が原因の任意売却
私どもへの相談で最も多いのは、離婚とそれに伴う住宅ローン相談です。
離婚をした場合によくあるケースのひとつが、夫が家の名義と住宅ローンの債務者になっているが、妻子がその家に住みたいし、ローンは住んでいない夫に払って欲しい。この場合、住宅ローンの契約違反になるので、本来はいけないのですが、実際にはこの対応をしているケースは世間に溢れかえっているようです。
問題は契約違反だけではなく、夫側は離婚後、妻と子どもに養育費や住宅ローンを支払っていくことになります。夫も離婚後は別の場所に住み、生活をしていかなければなりません。いくつもの大きな支出により、経済的な危機に陥ることもあるのです。そんな難しい局面を任意売却によって解決した例を紹介していきます。
◆離婚と任意売却は深く関係している
住宅ローンの返済と慰謝料、養育費の出費で家計が一気に苦しくなったAさん
【離婚条件】
Aさんは40歳の小さな会社の社員。離婚の原因は、Aさん側にありました。調停を経て、慰謝料は200万円と決まりました。さらにお子さん2人分の養育費5万円/月と住宅ローン約10万円/月です。分割支払いの慰謝料は別途月2万円。自宅であるマンションは約3850万円で購入し、残債は3400万円。頭金を奥様の独身時代の貯金で賄ったため、その返済もする必要がありました。離婚後は元妻への月20万円以上の支払いが生じていました。
Aさんが離婚の有責者という負い目もあり、相手の言うがままの離婚条件をのみ、公証役場で離婚公正証書を作成したそうです。
【収支】
Aさんはの手取りは月30万円ほど(ボーナスは別途年70万円)。この中から月約10万円を妻子へ送ります(ローンはAさん口座からの引き落とし)。マンションなので、ほかに管理費や固定資産税などの負担もあります。Aさん自身の生活費も必要です。最初こそ「毎月の赤字はボーナスで補填できるから大丈夫だろう。」と思ったのですが、離婚して1年も経たないうちに、カードローンや消費者金融で借金をするようになりました。カードローンに手を出したきっかけは、離婚後半年に子どもさんが入院したためです。元妻が介護休暇を取っている間、生活費を仕送りする必要まで生じました。
仕方なく、住宅ローンをカードローンで支払いました。増える一方の借金に、もはや自己破産か、と思い詰めて会社の先輩に話をしたところ、任意売却を教えられた、とのことです。
【難題】元妻が離婚公正証書を楯に退去を拒否
離婚時、有責者であるために奥様の要求をすべてのんだAさん。懲罰的とも言える離婚条件の厳しさです。お子さんの回復を待って、元妻に家の売却を前提に退去を求めると、元妻は「離婚時の約束でマンションに私と子を住まわせ、ローンや管理費はあなたが負担するという約束でしょ!」と、公正証書を突き付けて拒否するばかりです。Aさんはやっと、離婚時の対応がまずかったことに気づきました。所有者は自分ながら、自由に処分もできないのです。
【ローン滞納へ】
離婚して1年あまりはなんとか支払い続けていたAさん。マンションが残債額以上で売れるならばいいのですが、査定を取るとマンションの時価は約3200万円程度、とのこと。預貯金など一切ありません。カードローンの限度額を使い切れば、そのまま住宅ローンは払えなくなるのは明らかでした。
【相談】
Aさんのマンションは、売却しても数百万円の借金が残ります。オーバーローン状態だと、住宅を売り払っても住宅ローンを完済できないため、その差額を一括で現金補填しない限り、金融機関が売却を許可しません。そのため、苦しくても住宅ローンを支払い続けるしかない、と考えている方がいます。Aさんもそんな方の一人でした。
Aさんには、任意売却の仕組みと債権者の任意売却に対する対応を説明し、まずはカードローンなど借り入れた金で住宅ローンを支払うのを止めるよう説得しました。借金をほかの借入で支払うのは、債務を大きくするだけです。滞納には抵抗がある様子のAさんでしたが、払う原資もなく、やむなく任意売却に取り組むことになりました。
【元妻との攻防と結果】
ローン支払いができなくなってすぐ、借入先である都市銀行と協議のうえ、保証会社に移管されたのちに任意売却することとなりました。Aさんの物件は、広めの間取りであったため、同じマンション内の一部屋分小さな部屋に住む方が買いたい、という申出が早い段階から出ていました。そのため金融機関と協議し、買主が同じ銀行でローンを組む前提で、早めに話を進めることができました。あとは、元妻への説得です。退去していただかない限り、売却は困難です。元妻は、先述の通り、公正証書の約束を楯に引越しを拒んでいましたが、Aさんの住宅ローン滞納がはじまったことで、退去を拒んでも、いずれは競売となって出ていかざるを得ないことを理解してもらいました。
結果、相談から5か月目には決済を終えることができました。価格も見込み通りの3200万円で売却でき、カードローンと住宅ローンの残り借金は、債務整理をして3年で終わらせることができそうです。他に慰謝料と養育費などの支払いもありますが、住宅ローンや管理費などの支出がなくなったことで、Aさんはずいぶん楽になったそうです。その後は独身のお兄さんの住まいに身を寄せて、経済的な立ち直りを図っています。
◆まとめ
離婚によって経済的に楽になる方はごく少数です。
特に男性は現実を知る前は、『大丈夫だろう。』と考える傾向にあるように感じます。これまで払えていたのだから大丈夫。しかし家計の工夫で削減できる範囲は限られています。なお、離婚で経済的に苦しくなりがちなのは、男女とも同じと言っていいでしょう。
男性側は、
・生活費の増加(多くは自身の生活に加え、子への養育費などが発生する)
・慰謝料や養育費などの負担
・扶養家族が減ることによる手取りの減少
・離婚にかかるストレスや孤独感から仕事の能率低下
対して女性側は、
・多くが子どもを引き取って育てることから、仕事に一定のセーブが必要
・低収入かつ不安定な仕事への再就職
・多くは養育費だけでは教育費が不足しがち
離婚後の家計は家族人数が減る分、ダウンサイジングできそうに思えますが、大きく減るものではありません。
特に離婚を焦るあまり、相手の言いなりになってしまうのは危険です。お子さんがいらっしゃるのであればなおのこと、長期的視野に立って、約束(責任)を果たせる条件で離婚協議書や離婚公正証書を交わすことが重要です。