任意売却と信用情報 ~デメリットはブラックになるだけ?~
◆『任意売却をするとブラックリストに載るのですか?』
任意売却のデメリットはいくつかありますが、ここでは、信用情報に関するお話を中心に展開致します。まずはじめにお伝えしたいのは、任意売却をしたからブラックリストに載るのではありません。たしかに、リンク(関連)はしていますが、信用情報に任意売却した経緯が記載されるわけではないのです。
任意売却は、以下の両方を満たした際に、競売を避けて市場で売却する方法です。
1)ローンの滞りがある
2)物件がオーバーローン(ローン残高>家の時価)で、売却時にその差額を用意できない
上記の通り任意売却は、延滞が続いて信用情報機関に登録されたのであって、任意売却が原因ではありません。任意売却をはじめた際には、既に信用情報機関に延滞履歴が登録済みなのです。
任意売却のデメリットは、債務整理とほぼ同じで、信用情報に延滞履歴が登録されること、これに尽きます。具体的には、当面(少なくとも5年以上)新規のローンやクレジットカード作成が困難となります。
【コラム】お金の”ブラックリスト”は存在しない
世間一般に言われる、「ブラックリスト」はお金に関してはありません。実在するのは、信用情報です。これは、融資を中心とする、信用取引の契約内容や返済状況、利用残高、新規融資取引の照会などの客観的な取引事実を記録、一覧にした情報です。そのため、利用しているいないに関わらず、クレジットカードを作成すれば、その情報が載っています。
任意売却のデメリットとして最も大きいのは、この信用情報機関に延滞履歴が登録されることです。延滞履歴が3ヶ月以上続くと、当面新規の与信審査に通ることが難しくなります。これは、住宅ローンに限らず、クレジットカードなどの取引も同じです。
また、債務整理を行った場合も、信用情報にその記載があります。そのため、例えば直近で任意整理をした、あるいは個人再生をした方などは、そもそも信用情報にその登録がありますので、同じく融資に関して新規取引は困難です。
ご参考:株式会社日本信用情報機構(JICC)『信用情報記録開示書』説明書
https://www.jicc.co.jp/file/kaijikoumokusetumeisyo_syosai_zentai.pdf
◆信用情報は審査のごく一部
どの方も信用情報について、「一体いつまでその延滞記録が残っているのか?」を非常に気になさいます。”5年の登録期間”とは任意売却後、残債務の返済が終わってからなのか、滞納し始めてからなのか。5年経てばその悪い記録は消え、また融資を受けられるようになるのか?と心配します。
各信用情報機関(4つある)のホームページ上の記載は、ほとんど同じです。
でも、実際にはどのようになっているのか…。結論から申せば、「5年を過ぎたからといって、確実に融資が受けられるとは限らない」ということです。
各信用情報機関に加盟する金融機関は、『信用情報は照会するが、審査はそれだけではない。』ということです。もちろん、信用情報は最初に照会しますので、そこで延滞履歴や債務整理の記録があればその時点で、ほとんどの金融機関は融資を却下します(それでもごく一部は融資を受け入れます)。あとは、借りたい金額と債務者の年収や年齢、返済比率(収入と返済のバランス)、利用目的などを総合的に判断します。つまり、ほどんとの金融機関は信用情報を利用するものの、その運用やについての説明の曖昧さの原因となっていると思われます。
https://www.jicc.co.jp/whats/about_02/index.html
例:信用情報の掲載事項について(抜粋)
▼返済状況に関する情報
登録期間…入金日、入金予定日、残高金額、完済日、延滞等 契約継続中及び完済日から5年を超えない期間
(ただし、延滞情報については延滞継続中、延滞解消の事実に係る情報については当該事実の発生日から1年を超えない期間)
▼取引事実に関する情報
登録期間…債権回収、債務整理、保証履行、強制解約、破産申立、債権譲渡等 当該事実の発生日から5年を超えない期間
(ただし、債権譲渡の事実に係る情報については当該事実の発生日から1年を超えない期間)
↓CIC(株式会社シー・アイ・シー)「信用情報開示報告書の見方」PDFより
◆信用情報にこだわる理由は何か?
1)またローンを借りたい
2)仕事に影響はでないのか
3)知人などが金融機関勤務。バレないのか?
4)借りる予定はなくても気になる
1)の場合は、任意売却や債務整理をするタイミングも重要になります。例えば、『子の教育費の捻出のために家を任意売却をしたい。』これは両立しない相談の典型となります。理由は、任意売却はそもそも借金が残る売り方であり、家の売却代金はローンの返済にほぼ全額充てられるからです。そして教育ローンの借主または連帯保証人である親が信用情報に難ありの場合、審査は通らないでしょう。『”国の教育ローン”である日本政策金融公庫ならば、一般の金融機関ではないので、借りられる。』という都市伝説のような話があるそうですが、日本政策金融公庫も信用情報を共有しています。そのため、まだ若い方の場合やお子さんが幼い場合、将来の借入のメドがつけやすいように、任意売却の際は敢えて自己破産などの債務整理をする場合もあります。
2)住宅ローンの滞納を以って、仕事に影響が出る、あるいは職場に知られてしまう、ということはまずありません。ただ、滞納中、引き落とし口座の営業店から、未納の連絡をすることがあります。何度掛けても、繋がらない、あるいは折り返しもない、となると、ローン審査時に記入した職場で連絡を入れることがあります。その際はもちろん、個人名で債務者を指名します(筆者は元銀行員)ので、簡単に職場に分かるようなことはないでしょう。
3)信用情報を照会できるのは、金融機関の中でもごく限られた一部です。ローン審査部のスタッフでも、照会結果を担当者が知るくらいです。それも詳細は全く分かりません。センシティブ(機微)情報なので、いくら行員でも不特定多数の者が見たり、共有することはありません。知人がたまたまその部署で信用情報にアクセスできる確率はそう高くないと思われます。
4)最も多いのは、不安からくるものでしょう。具体的にローンを借りる予定がなくとも、自身の状態に関することなのですから、心配するのも当然です。まずは、信用情報をご自身で調べてみてください。今はスマートフォンで開示請求ができます。
https://www.cic.co.jp/mydata/index.html
株式会社シー・アイ・シー
なお、先にも述べましたが、各金融機関によってローンの審査基準が異なっています。信用情報は、審査の皮切りになるので、ここでアウトなら審査も当然通りません。しかし、信用情報がクリア、あるいはその金融機関にとって問題のない状態でも、金利の高い借入があると審査には通りづらいものです。安い金利の住宅ローンを借りたい場合で、カードローンやショッピングのリボ払いなどがあるときは、まずその借入を一旦完済してしまってから融資審査を受けるほうがいいでしょう。
↓CIC(株式会社シー・アイ・シー)「信用情報開示報告書の見方」PDFより
◆連帯保証人や連帯債務者も”ブラックリスト”に載るのか?
結論:返済請求があり、その弁済期日までに支払いができなければ、事故情報が登録されます。そのため、時期の違いはあるでしょうが、主債務者も連帯保証人(債務者)も、同じ状況になると考えてください。
◆信用情報に傷をつけず、任意売却する方法はあるのか?
信用情報をクリアしつつ、家を売却する場合は任意売却とはなりません。
ここで任意売却のおさらいをします。任意売却とは…
1)ローンの滞りがある
2)物件がオーバーローン(ローン残高>家の時価)で、売却時にその差額を用意できない
この二つを満たす、売却方法ですね。
本来、住宅ローンが滞れば、その担保不動産は競売で処分します。また、売却の際はその担保融資を全額返さなければ、手続きはできません。金融機関がこの原則を破るには、特例対応を認める経緯や事情が必要です。
しかし、任意売却は、ローン滞納によって借金が”事故債権化”しているため、売却額がローン残高に足りなくともその差額を用意しかねるであろう、という考えから、完済をせずとも抵当権の抹消に応じてもらえるのです。
つまり、売却する際に完済できないのであれば、住宅ローンは滞納していなければならない、ということなのです。
◆絶対に滞納はしたくない、信用情報はクリアにしておきたい方へ
<任意売却を避ける手段はあるのか?>
それでは、オーバーローン物件を売却時に信用情報がクリア(延滞履歴なし)なままで手放すにはどうすればいいのでしょうか?
1)売却時にローンを完済する
2)「住み替えローン」を利用する
3)売却せず支払い続ける
<解説>
つまり、滞納や延滞とは無縁の方法を選ぶことになります。
信用情報を守る以上、任意売却や債務整理とは無縁の選択をすることとなるのです。
1)ローン残高-売却代金+売却諸費用の差額を一括で補填する
この差額の用意は、現預金やほかの借入、親族からの援助が該当します。
2)住み替えローンとは、今の自宅を売ってもローンを完済できない場合に、その残債と次の家の購入資金をまとめて貸してくれるものです。金融機関によっては「買い替えローン」と呼ぶこともあります。
3)売却せずこのまま支払い続ける。ローンが苦しい場合は、リスケジュール(支払い計画の変更、リスケとも言う)を申し出ましょう。延滞や滞納が発生していない段階でリスケジュールの審査が通れば、少なくとも信用情報に影響が出ることはありません。